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「やー、映えるぅ!」
視線を浚った黄色い歓声の先に、信じられないモノがあった。
「『サンタのヒゲ』だってー」
「ウケるんだけど!」
女の子3人が騒ぐテーブルには、半分に切った赤肉メロンの上に、トグロを巻いたソフトクリームが豪快に乗っていた。彼女達の優先順位はインスタなんだろう。カシャカシャピロピロ喧しくスマホを向けている。
「お待たせ……って、空いてねぇの」
颯介は、ドリンクだとMサイズくらいの紙カップを、両手に1つずつ持っている。片方を受け取ると、芳ばしい匂いに胃がクゥと反応した。周りのざわめきで、聞こえなかったと思うんだけど。
「ありがと。ごめん」
「いいって。じゃ、立ち食いな」
「ふふ。なんかお祭りみたい」
往来の邪魔にならないように、壁際に移動する。
「さっき見たんだけどさ、コロッケと肉まんの店も美味そうで……って、なんだあれ」
付いて来ようとした彼の足が止まった。視線の先に、例の女の子達のテーブルがある。まだ被写体になっていたサンタのヒゲは、先からゆるく溶け出している。
「ふふっ。すごいよね」
小声で笑って、ザンギに竹串を刺す。揚げたて熱々、ジュワッと油が溢れ出す。俺は猫舌だから警戒しながら齧り付く。しっかりとした生姜の香りに、独特の塩こしょうが効いていて美味い。衣の下の肉も柔らかく、肉汁にクドさがない。何個でも食べられそうだし、また食べたくなりそうだ。
「これ、美味しいねぇ」
満足顔のまま見上げると、一瞬俺を見詰めてから相好を崩した。
「だろ? ビールが欲しくなる」
「も、すぐそれなんだから。俺、酔っ払いとは、歩かないからね」
彼は酒好きだ。それに、結構強い。まだ20歳になったばかりだというのに。思うに、10代の頃から飲酒経験があるんじゃないだろうか。この、不良め。
「飲まねぇよ。もう酔ってるから」
先に食べ終わった彼は、ニヤニヤしながら見下ろしている。
「えっ。いつ飲んだのっ?」
「だから、お前に酔わされっぱなし。楽しくてフワフワする」
「……ばかっ」
もー、バスの中のこと、絶対反省なんかしていない。俺が動揺する様子を見て、喜んでいるんだ。
「ホントだって。本当はさ……お前と手とか繋ぎたいんだよ。だけど……小樽は札幌に近いから」
ドキンと胸の奥が震えた。俺ばかりがひとり動揺させられているって思っていたけど、彼も内心ドキドキしていて……余裕のなさの裏返しなのかもしれない。そう思うと、急に彼が可愛いく見えてきた。
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