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ザンギを平らげたのに、肉まんのお店で「カニまん」を買った。中のあん、つまり具材がカニのほぐし身という贅沢な一品で、さすがに腹が一杯になった。
「北一ガラスってお店、沢山あるんだね」
運河と反対側の通路から出抜き小路を出ると、道路の両側にズラリ、土産物店が軒を連ねていた。その中でも目を引くのは「北一ガラス」という店名の石造りの建物だ。「〇号館」というのが、あちこちにある。
「そうだな。ここは『クリスタル館』だけど、さっき『三号館』があっただろ。アウトレットとか工房とかもあるんだ」
店内を覗くと、グラスや食器だけじゃなく、一輪挿しや置物、アクセサリー等、想像以上に色んな種類のガラス製品があって驚いた。どれも綺麗なんだけど、手が滑らないか心配で、おいそれとは触れられない。眺めながら歩いていたら、女の子達が集まっている場所があった。近づいて見ると、白くて丸いマスコットみたいなのが沢山並んでいる。
「わ、これ可愛いっ」
「あぁ、シマエナガか。へぇ……ここのオリジナル商品なんだ」
雪の妖精、と呼ばれる実在の小鳥をモチーフにしたキャラクターと説明がある。コロッと真っ白な身体に、黒い羽、少し長い尾、そしてつぶらな丸い目と小さなくちばし。凄く可愛い。これは女の子達が集まるのも分かる。置物以外にもピアスとかストラップもある。ストラップか――ふと、初デートの記念にしたいな、なんて思った。もしお揃いで買ったら、颯介は付けてくれるだろうか。
「あー、こういうグラスだったら、ワインも美味いだろうなぁ」
彼の興味は、シマエナガから隣のワイングラスに移っている。
「ワイン? 颯介ならビールじゃないの」
「うーん、ビールはなんか違うんだよな。グラスで飲むって感覚が薄くて」
「そんなものなの?」
「缶か、ジョッキかな」
「ビアジョッキも、さっき見たよ」
「いや、宅飲みなら、缶で十分だって」
妙な拘りが可笑しい。だけど、こうやって一緒に出掛けると、普段なら通り過ぎるような事柄に立ち止まったり、相手の好き嫌いとか考え方なんかが分かってくる。ちょっとずつ、新しい扉が開いていくみたいで嬉しい。
「ちょっとレジ行ってくる」
「ん? なんか買うのか」
「うん、ちょっと」
誤魔化して、ササッとレジに並ぶ。短い列が出来て混んでいたから、彼は付いてこない。自宅用の簡易包装にしてもらって、小さなショップ袋をぶら下げた。
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