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堺町にある五叉路の交差点は、通称「メルヘン交差点」と呼ばれている。「オルゴール館」とか西洋風の建物に囲まれているのが由来という説があるけれど、本当のところはよく分からないそうだ。
交差点を囲む西洋風の建物の1つが、次に立ち寄った「ルタオ」だ。ここは本店で、1階がショップ、2階がカフェになっている。
「札幌にも店舗あるんだぞ?」
「うん。でも、ほら、本店限定なんだって」
専用の買い物カゴに、チョコレートとクッキーを入れて、チーズケーキに手を伸ばしたところで、颯介が苦笑いした。
「お前って、プリンだけが好きって訳じゃないんだな」
「プリンが1番好きだけど、他も好きだよ。北海道のお菓子って美味しいじゃん」
「そうだなぁ」
会計を済ませると、然り気無く荷物を持とうとするので、やんわりと断る。そんなやり取りすら、なんだか擽ったい。
2階のカフェは満席だったけれど、5分くらい待って、壁際の正方形のテーブル席に通された。女性が7割、カップルが2割、ファミリーっぽいのが1割。男同士の組合せは、俺達しかいない。
「あのさ、颯介……ごめん」
正面ではなく俺の右隣に座った颯介に、小声で謝る。
「うん? なに、どうした?」
店員さんが置いていった水を一口飲み、メニューを開いたところで、彼が動きを止める。
「だって、男同士でさ……恥ずかしいんじゃない?」
彼はそんなに甘いモノ好きじゃないのに、俺に付き合わせている。
「お前、恥ずかしいの?」
俯く俺の顔を覗き込んでくる。それだけで、ドキドキする。なんか、顔が近い……。
「えっ……ううん。でも」
「だろ? 気後れすることないって。俺は全然気にならねぇよ」
テーブルの上に置いていた俺の右手に、ポンポンと軽く触れてくる。掌が、あったかい。
「本当?」
「『スイーツ男子』って言葉もあるじゃん。気にしすぎだって」
ニッコリ笑って、「ほら、好きなの選べよ」、と俺の前にメニューを広げる。美味しそうなケーキの写真がズラリと並んで……多分、俺の気持ちを上げようとしてくれているんだろう。
「ってゆうかさ、気になるんなら、俺だけ見てろよ」
スッと耳元に顔を寄せたかと思うと、そんな大胆なことを囁いた。急に耳が熱くなって、睨みつける。
「もうっ。気にした俺が間違ってたっ」
「ははっ。その調子。この先も、お前が行きたいって言うなら、俺はどこでも一緒に行く。遠慮なんかしないから、お前もヘンな気遣いはするなよな」
ああ……この強さだ。親友の頃から、少しお節介な力強さに、俺は助けられていた。彼と居ると居心地が良くて、すっかり安心出来るんだ。
「分かった。俺も、颯介の行きたいところがあれば、一緒に行く。メイド喫茶でも、キャバクラでも、どこでも付いて行くから、遠慮しないで、言って?」
「……なんでそうなるんだよ」
彼は、眉間に薄くシワを刻むと、ゆっくり息を吐いた。
「ま、気持ちは有難く受け取っておくから、そろそろ注文決めようぜ?」
苦笑いする横顔がグッと大人びて見えて、格好いい。なんだか泣きたいくらい嬉しくなって、胸の奥が甘く痺れた。
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