恋人初日(こいびとしょにち)

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「んー……んまいぃ……っ!」  感動した。1つの皿に、2種類のチーズケーキが乗った「奇跡の口どけセット」。ここ、「ルタオ」本店のカフェ限定のスイーツだ。  まず、1つ目。黄色と白の2層構造のケーキが、ルタオの代名詞ともいえる「ドゥーブルフロマージュ」だ。しっかり濃厚なベイクドチーズケーキの上に、ふんわり軽やかなレアチーズケーキが乗っている。スイーツ好き、特にチーズケーキ好きには堪らない一品だ。しかも、ここでは「生ドゥーブルフロマージュ」といって、通常販売されている冷凍のものとは違う。マスカルポーネを使ったレアチーズが、口の中で滑らかに溶けて、信じられないくらい豊潤なチーズで満たされる。甘さも上品で……ホント、「奇跡」かも。 「お前……顔が蕩けてるぞ」  声をかけられて我に返ると、颯介がジッと俺を眺めている。まるで可愛い仔犬とか仔猫、愛玩動物を愛でる眼差しに、頰が熱を持つ。 「や、やだな。なに、見てるんだよ……」 「幸せな顔」  あ、ダメだ。火、噴いた。耳まで熱い。 「ばっ……」 「来て良かったなぁ。見ていて飽きない」  狡い。男前の爽やかな笑顔を崩して、すっごく幸せそうに笑うんだ。 「も……やめてよっ、恥ずかしいって……」 「いいだろ。俺も幸せになるよ」  ケーキセットの紅茶じゃなくて、氷の残る水を流し込む。気休めでもどっか冷やさないと、心臓が持たない……。 「颯介、ちょっと食べてみて」  この美味しい感動を共有したいって思ったんだけど、それ以上に、彼ならどんな顔をするのか、興味があった。 「え、女子かよ。俺はいいって」  あ、ちょっと困り顔。ふふ。強引に、フォークで切り分けて、彼の皿に乗せる。 「ダメ」  仕方ないとボソッと呟きながら、彼は置かれたケーキを口に運ぶ。 「チーズが濃い。けど、甘いなぁ」  甘いと言いながら、苦笑いする。その笑顔が俺の胸を甘くする……。 「颯介のだって、同じドゥーブルフロマージュだろ」  彼が食べているのは、ドゥーブルフロマージュのチョコレートバージョン「生ショコラフロマージュ」だ。メニューの説明では、少しビターって書いてある。 「食べてみるか? ほら、半分」  答える前に、ざっくり大胆に2つに切って、その内の大きい方を俺の皿に置いてしまった。 「えっ。こんなに貰ったら、颯介の無いじゃん」 「いいって。お前の美味そうな顔の方が、俺にはスイーツだ」  また俺の顔を眺めるつもり満々なので、一計を講じて、もう1種類の「ヴェネツィアンランデブー」を1/3乗っけた。これもマスカルポーネチーズを使った、ねっとり濃厚なチーズケーキだ。 「じゃ、こっちも一緒に食べて」 「なんだよ……仕方ねぇなぁ」  なんだかんだ言っても、彼は俺の我が儘を聞いてくれる。こんなに甘やかしてどうするんだと思うけど、フワフワと心地良い。  彼の皿から来たショコラが掛かったレアチーズ部分をパクリと含めば、口の中はちょっとだけビターだけど……やっぱり頰が緩んで蕩けた。
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