恋人初日(こいびとしょにち)

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「このあと、どこ行くの?」 「そうだな。一度、駅に戻ろうか」  ルタオの前の交差点を斜め向かいに渡って、オルゴール堂を少し見てから、再びルタオ前に戻ってきた。来たときに乗った可愛い循環バスに乗ると、運河沿いをグルッと回ってから、海をバックに坂道を上り、駅前ターミナルに戻ってきた。 「荷物、ロッカーに預けて行こう」  降車場の目の前に、コインロッカーがズラリと並んでいる。さすが観光地、動線がいいというか、上手く設置されている。 「え、いいよ、このくらい」 「いや。手が空いている方がいいんだ」  なにか思惑があるようで、颯介はちょっと強引にスイーツの紙袋をロッカーに入れてしまった。 「もっかい、バスに乗るぞ」 「あれ? ちょうど来たけど」 「いや、系統が違うな。あ、後から来たヤツだ」 「天狗山……?」 「そ。海の次は、山」 「登山でもするつもり?」 「まさか。さ、乗るぞ」  颯介は、何故か1番後ろの席に陣取り、俺を窓側に座らせた。ぞろぞろと客席が埋まる。 「もっと遅い時間の方が混むんだ」  なんだか意味が分からないまま、ふうんと答えておく。バスは、駅前ターミナルを出て、さっき通ったばかりの運河方面へ向かう坂を下る。そして、運河ターミナルまで来ると、乗客が半分くらい降り、代わりに倍くらいの人数が乗り込んできた。車内は、ほとんど満席になった。  運河ターミナルを出ると、途中まで駅前に向かったが、坂の半ばで左折して、違う道を辿りだした。もう一度山側に右折すると、あとはひたすら坂道を上っていく。ガタガタ揺られながら住宅街を走り、やがて緑が増えてきた。 「本当に、山だね」 「天狗山は、冬はスキー場なんだよ」  なるほど、と思った。山道を進むにつれて、鹿やキツネなんかが顔を見せないかなぁ……なんてのんびり考えたりして。 「お、見えてきたな」  ギュッと身を寄せてきた颯介が、窓の外を見上げている。 「え?」 「ほら、あれ。ロープウェイ」  赤い箱が山頂へ消える。山って、展望台かと思っていたけど、これが目的だったんだ。期待にドキドキしてきた。
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