29人が本棚に入れています
本棚に追加
「このあと、どこ行くの?」
「そうだな。一度、駅に戻ろうか」
ルタオの前の交差点を斜め向かいに渡って、オルゴール堂を少し見てから、再びルタオ前に戻ってきた。来たときに乗った可愛い循環バスに乗ると、運河沿いをグルッと回ってから、海をバックに坂道を上り、駅前ターミナルに戻ってきた。
「荷物、ロッカーに預けて行こう」
降車場の目の前に、コインロッカーがズラリと並んでいる。さすが観光地、動線がいいというか、上手く設置されている。
「え、いいよ、このくらい」
「いや。手が空いている方がいいんだ」
なにか思惑があるようで、颯介はちょっと強引にスイーツの紙袋をロッカーに入れてしまった。
「もっかい、バスに乗るぞ」
「あれ? ちょうど来たけど」
「いや、系統が違うな。あ、後から来たヤツだ」
「天狗山……?」
「そ。海の次は、山」
「登山でもするつもり?」
「まさか。さ、乗るぞ」
颯介は、何故か1番後ろの席に陣取り、俺を窓側に座らせた。ぞろぞろと客席が埋まる。
「もっと遅い時間の方が混むんだ」
なんだか意味が分からないまま、ふうんと答えておく。バスは、駅前ターミナルを出て、さっき通ったばかりの運河方面へ向かう坂を下る。そして、運河ターミナルまで来ると、乗客が半分くらい降り、代わりに倍くらいの人数が乗り込んできた。車内は、ほとんど満席になった。
運河ターミナルを出ると、途中まで駅前に向かったが、坂の半ばで左折して、違う道を辿りだした。もう一度山側に右折すると、あとはひたすら坂道を上っていく。ガタガタ揺られながら住宅街を走り、やがて緑が増えてきた。
「本当に、山だね」
「天狗山は、冬はスキー場なんだよ」
なるほど、と思った。山道を進むにつれて、鹿やキツネなんかが顔を見せないかなぁ……なんてのんびり考えたりして。
「お、見えてきたな」
ギュッと身を寄せてきた颯介が、窓の外を見上げている。
「え?」
「ほら、あれ。ロープウェイ」
赤い箱が山頂へ消える。山って、展望台かと思っていたけど、これが目的だったんだ。期待にドキドキしてきた。
最初のコメントを投稿しよう!