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黒
「白乃ちゃんはあの子のこと、どう思う?」
問いかけながらもその口調は自らの感情を露わにしていた。つまり『私は嫌いだけど』と。
だからわたしは本心を隠して答える。彼女の望む応えを、望むままに。
「えー。わたしね、あんまり好きじゃないかも。だってさ、ちょっと暗くない?」
口元に手をやって、でもくすくすと笑う様子はちゃんと見えるように。そうすれば相手は予想通り、満足気にぱっと顔を明るくする。
「やっぱり?! だよねぇ。あいつ、休み時間とかいっつも本なんか読んでるしさぁ。暗いよねぇ」
呼び方が『あの子』から『あいつ』になったのに気付いているのだろうか。恐らく気付いていないのだろう。だけどもちろん、そのことを指摘したりなんかしない。わたしの返事に彼女の機嫌が良くなったのなら、そのままにしておくのがわたしの正しい選択肢だ。そうしてからとどめを刺すように言葉をつなぐ。
「あっ。でもね、わたしがこう言ったってこと、誰にも言わないでね。お願い」
声を潜めてそう言うと、彼女はさらに嬉しそうな顔をする。
「もちろん。私と白乃ちゃんだけの秘密ね」
ふたりの秘密と言いながら、わたしの本心を握っているのだと優位に立ったつもりでいるのだろう。すぅっと鼻から息を吸い込み、鼻の穴がひくひくとしているのすら見えるようだ。
話しかけてきたときは、こんなに自尊心がくすぐられるとまでは思わなかっただろう。今はとても心地良く感じているはずだ。楽しくて楽しくて、全身が黄色い光を帯びているよう。
だからわたしはそれを否定なんてしない。彼女の黒い感情に、わたしも染まる。
わたしの今の色は、真っ黒だ。
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