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 真っ黒な心と同時に、上手くやれた安堵を感じていた。そんなわたしの色は見えていないのだろう。その日の放課後、帰ろうとランドセルを背負いかけたわたしに不安そうな声が届いた。 「白乃ちゃん。ちょっとだけ、いいかな」  振り向くより先に声の主が誰か分かる。彼女がどんな色をしているのかも。 「うん、いいよ」  それは今日、わたしたちが話をしていた女の子。弱々しく尋ねてくる声にも、不安の色がついているようだった。  何を話すのか、おおよそ察しながらついて行く。教室を出て廊下の隅まで来ると、ようやく振り向いたがやはり彼女は不安そうな顔をしていた。それは不安の青。怖さも滲んだ、くすんだ青だった。 「あのね、白乃ちゃん。……わたしって、その、みんなから嫌われてるのかな」  答えを聞くのが怖いのだろう、いっそう青がくすんでいく。 「えぇ? そんなことないって。誰がそんなこと言ってるの。わたしは好きだもん。だって、色んな本の話とかしてくれるから楽しいし」  少し大袈裟に予想外だと笑いながら言うわたしに彼女は安心したのか、肩の力がふわりと抜けるのが分かった。 「……良かった。ありがとう、白乃ちゃん」  その笑顔に彼女の青はわずかに透明な水色に変わった気がした。  だけど、わたしの色はやっぱり真っ黒なままだ。
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