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桃香
やがてわたしは高校二年生になったが、相変わらず周りに合わせて毎日を問題なく、川の水のようにゆるゆると流れ流れて過ごしていた。
学校は毎日が色とりどりの感情に溢れていた。
「白乃。放課後ひま? ちょっと付き合ってくれない」
話しかけてきたのはクラスメートの井上桃香。髪を明るい茶色に染めた、スクールカーストの上位にいる派手な女子だった。
「いいよ。どこ行くの?」
もちろんわたしは逆らわない。感情の激しい彼女はいつも赤。周りをも燃やしてしまいそうなその赤に逆らう子なんてほとんどいなかった。
「あのねぇ。チョコ買いに行くの。もうすぐバレンタインでしょ」
「桃香、チョコあげるんだ。ねぇ誰? 誰にあげるの?」
頬を赤く染めて、だけど聞いてほしそうに少しだけ顎を上げてこちらを見る彼女に、前のめりになって欲しいままの言葉を渡す。すると桃香は嬉しそうに顔を近付けてきた。
「誰にも言わないでね? あのね、橋本くんにあげるの。彼、かっこよくない?」
橋本達也。隣のクラスの男の子。サッカー部で汗を流す姿が格好良いと、わたしは密かに以前から思っていた。
だけど今は、そんな彼の名前が出て頭から血の気が引く思いだった。
だって、彼はわたしと付き合っているから。
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