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「いつもスーツに白い毛をつけて帰ってきてたのに、気づかなかったわ。」
先日、ペットショップにいたラグドールの女の子は、愛結の膝元で丸まっている。ふわっと抱え上げて、"さくら"と名付けた彼女を華佳に手渡した。
「いえいえ。兄がずっと"将来は猫を飼いたい"と言っていたのを私も忘れていました。」
"灯台下暗し"と愛結は上品に笑う。隣に座っている辰実はいつも通りぶっきらぼうな表情であったが、先日に愛結が言っていたような険しい様子では無い。
少なくとも、そういう様子に華佳は見えていた。
「父も先日、"猫を飼いたい"と言い出したんです。最近帰りが遅いのは、ペットショップに通っていたそうです。」
辰実を見る愛結。対して辰実は愛結を見るではなく、さくらの背中をじっと眺める。
「仕方ない、父と息子だ」
辰実は華佳からさくらを渡される。ブルーの瞳と目が合った時に"にゃー"と鳴いたのが、一件落着なのだろう。
さくらの中で辰実は愛結よりも、2歳になる双子の娘よりも下である事が決まったのは、程なくしての事である。それは父も一緒であった。
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