猫のさくら

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 * 後日。 「最近、辰実の帰りが遅いのよ、でも1時間もないくらいだから変な事はしていないと思うけど。」 辰実の妻である愛結の話を、華佳は耳だけで聴いていた。商店街の喫茶店で注文したアメリカンコーヒーが、思ったよりも薄い。 「家にいる時、変わった様子はないんですか?」 「無いと思うけど、最近ちょっと帰ってきた時に顔が険しいの。」 「兄さんの顔が険しいのは、いつもの事では。」 「そう、そうなんだけど。でもあの険しいのは何か考え事をしてるわよ。」 父と辰実が似ていないとすれば、片方はいつもヘラヘラしているのにもう片方は常にぶっきらぼうな顔をしているという点だろう。基本的に自由人という事だけがよく似ている。 「様子がおかしくないなら、変な事を考えてるんですよ。」 「時々上の空だったけど、華佳ちゃんがそう言うなら別に何もないのかな。」 アメリカンではなく、エスプレッソを注文しておけば良かったと華佳は後悔する。夫婦とは言え、一緒になって3年か4年になる愛結と、20年以上も一緒にいた華佳では辰実に対する見方が違う。愛結の方がそこまで気を遣うくらいに濃い時間を過ごしていたのだった。
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