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撮りませ記念写真
金曜の夜、新宿2丁目のショーパブ「ルーチェ」では、人気ダンスユニット「ドルフィン・ファイブ」の2人のダンサーの旅立ちを見送るショーがおこなわれた。会場は席数を増やしても大入り満席で、タツこと達也のファンは、「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」に乗せた彼のソロダンスに涙した。彼は4月に渡米し、ダンスの学校で本格的な修行を始めるのだ。
ショウこと晶は、5月のロンドンでの舞台に出演するため、準備を含めて2ヶ月半休演する予定である。古参ファンにとっては初めてのことではないせいか、達矢ほど涙を誘うことはなかったものの、彼のソロでの歌とダンスに大きな喝采が送られた。
終演後、来場者全員が3つのグループに分かれて、ドルフィン・ファイブのメンバーと記念撮影をした。場はわちゃくちゃと大騒ぎになったが、時間が遅くなっても皆文句も言わずに、ルーチェの店長の指示に従い写真に収まった。希望者は終演後に配布されたパスワードを使い、写真データをルーチェのホームページからダウンロードできるという。コロナ禍で営業できなかった苦労を経て以来、ルーチェは人気グループのショーに対していろいろなファンサを考えるので、晴也はいつも感心してしまう。
土曜日ののんびりした午後、晶は3枚の記念写真をパソコンでダウンロードしながら、ドルフィン・ファイブのメンバーについて話した。
「何か俺も、優さんや翔大みたいにダンサー名義でSNS始めてみようかな」
3枚目の写真の隅っこに、女装バー「めぎつね」の同僚の美智生と自分が写っているのを確認して、晴也も写真をスマホにダウンロードする。
「ああ、こういう写真をアップするのか」
「翔大なんか、水曜のストリップ辞めたいっていつも言ってるくせに、水曜に撮った記念写真はちゃっかりインスタに上げてる」
インスタのアカウントだけ持っている晶が、翔太のページを見せてくれた。水曜夜にルーチェに来ていることを周囲に秘密にしている客も多いので、翔大のアップしているその写真は、ダンサー以外にしっかりモザイクがかかっていた。
「でもこれってファンにしたら、写真撮るのも、推しがそれをSNSで紹介するのも嬉しいよな」
晴也が言うと、なるほど、と晶は頷く。
「ロンドンから帰ったらアカウント作るかな」
晶の言葉に、晴也は軽くもやっとした。感じたまま突っ込む。
「作るなら今すぐ作れよ」
「何で?」
晶は珍しく急かすような晴也に、ぽかんとして訊いてきた。晴也はいや、とやや口籠って、何が引っかかったのかを考える。
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