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「……帰ってからやろうとか言うとさ、死亡フラグ立つみたいで嫌だろ?」
「死亡フラグ?」
晴也の言葉に、晶はしばし黙って脳内を働かせている様子だったが、ぶはっと笑った。
「待ってハルさん、その発想面白過ぎる、『俺この戦いが終わったら結婚するんだ……』みたいなやつ?」
「そうだよ! おまえがいっつもアニメとかドラマ見ながら、あっもうこいつヤバい、とか言うからだろ!」
「いやいや、それ二次元のフィクションじゃないか」
確かに自分でも可笑しいとは思うのだが、あまりに晶が笑うので腹が立ってくる。
「おまえが出掛ける前だから今は嫌なの! 察せよ馬鹿!」
晴也が言い募るほど、晶には笑えるらしかったが、彼はわかった、と言ってくれた。
「そうそう、記念写真と言えば、おかんが押し入れを整理してたら、姉貴と俺の高校の卒業アルバムが出てきたらしくて」
晶はパソコンの画像フォルダをクリックした。制服の男女がかしこまって並ぶ集合写真が拡大される。
晴也は男子が固まって写る辺りを見つめて、思わずあっ、と言った。今よりひょろっとしているが、微笑している黒髪眼鏡男子は晶に違いなかった。
「可愛いな! めちゃ真面目な子っぽい」
「昔も今も真面目だって」
今度は晴也が笑ってしまう。これをSNSに上げたらいいと言うと、晶まで面白がり、そうだな、と応じた。
「高校の同級生が気づいてくれたら、生きてますアピールができる」
晶の最終学歴は高校だ。卒業してすぐにイギリスに渡ったので、今もつき合いのある友人は、晴也が知る限り、2人しかいない。晶のことだから、他にも喜んでくれる同級生もいるだろう。
「今度帰省したら、ハルさんの卒業写真も見せて」
「えーっ……まあいいけど」
超隠キャ時代の写真はあまり見せたくないが、晴也ばかり笑ってはフェアではないと思う。晶に承諾の意を伝えると、彼はパソコンの電源を落としながら、言った。
「こういう記念写真って、人生に何回くらい撮るものなんだろ」
よく考えると晴也は、あまりこういった写真に収まる機会が少ない。今の会社は、入社式以外の写真は持っていないような気がする。
「普通に考えて、所属したコミュニティの数だけあるっぽい」
「……ハルさんと俺と2人の家族でとか、そのうち撮らないといけないな」
晶が最後のほうを独り言にしてしまったので、晴也にはよく聞こえなかった。しかし晶が何故かニヤニヤしていたので、どうせろくなことを考えていないのだろうと思い、晴也は訊き直すのをやめておいた。
〈初出 2024.3.2 #創作BL版深夜の60分一本勝負 お題:記念写真、撮影〉
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