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願い花
3年に1度。
僕が住む小さな街に世界中から獣人、人獣、人間…色々な種族の恋する人々が集まってくる。
みんなの目的は『3年に1度だけ咲き、手に入れると絶対に恋が叶う』と噂される花を見つけること。
僕の住む街自体は小さいけれど、街全体が魔法学校になっている。
だから噂の花は街中のどこに咲いているか分からないし、その花は『緑の花びらに赤いヤク』とだけしか知られていなくて、本物を見た人はほとんどいない。
「今年は『花祭り』の年か〜」
噂の花には全く興味がない僕とノエルは、街中必死になって花を探す人々を横目に、街から遠く離れた村外れにある、僕達の家に急ぐ。
「お前は噂の花、探さなくていいのか?探したいんだったら手伝うぜ」
「よく言うよ。ノエル、探す気なんてさらさらないだろ?」
僕がそう言うと、二カッとノエルは笑う。
「それより今日、あの子達が生まれる日だよ」
「今日か。早く帰るぞ」
家路を急ぐノエルの足が早くなる。
「待ってよ」
ノエルの後を駆け足で追いかけると、
「引っ張ってやる」
手を差し出してくれる。
「ちょっとはゆっくり歩くって選択肢はないの?」
「ない。だって産まれてくる時は、一緒にいてやりたいだろ?」
うん、と僕が頷くと、ノエルは僕の手をしっかり握り走り出す。
「間に合った〜」
ダッシュで帰ってきた僕達は、カバンを持ったまま裏庭に走る。
僕達の家の裏には、僕達以外には見えないバリアをはった庭があり、その庭には白い花びらに白いヤクの花がたくさん咲いている。
「3年前生まれた妖精達は元気かな?」
「きっと元気だよ」
僕がそう答えると、ノエルも「そうだな」と答え、僕達は花の妖精達が産まれてくるのを静かに待った。しばらくすると蕾だった花達が少しずつ花びらを揺らし始める。
「生まれるよ」
僕達は息を飲んで、妖精達が生まれてくるのを見守る。
ゆっくひと花が開き、中から小さな小さな花の妖精が、長い眠りから覚めたように伸びをしながら生まれ、僕達を見つけると周りに飛んできてくれる。
「おはよう。今から幸せになるおまじないをかけてあげるね」
僕達は人差し指にオーラを込めて、妖精達の額にオーラを移す。
「幸せになるんだよ」
最後の一人を見送ると、やっぱり少し寂しい。
「大丈夫、きっと元気な姿を見せに来てくれるよ」
ノエルは僕の体を引き寄せる。
「次の子達も元気にそだってくれるかな?」
と、ノエルは右掌を僕に差し出す。
「僕達の子供だもん。元気に育ってくれるよ」
僕は左掌を差し出されたノエルの掌にくっつける。すると僕達の合わさった掌から光が放たれ、花の苗木が産まれる。
「3年後、会おうな」
2人でそっと、その苗木を庭に埋める。
僕達は絶滅したと言われている花の妖精のまつえ。。
開花が3年に1度だから珍しいとたくさん抜き取られ、後にあの噂がついてきた。
僕達が人間と同じ大きさになるには、100年かかる。だから生き残った僕達は『恋が叶う花は、緑の花びらに赤いヤク』と花の特徴を変えた噂を流し、家の裏庭で子供達を守った。
僕達を絶滅の危機に追いやった噂を聞いた時は、本当に悲しかったし悔しかったけど、あるかどうか分からない花を探してまで、叶えたい恋がある気持ちは、今の僕ならわかる。
僕は恋が叶う花に出会ったことはないけれど、心から愛するノエルと出逢えたことは、花を見つけるよりも奇跡に近いのかもしれない。
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