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1月2日
目覚めると朝だった。
部屋が明るい。
床に敷かれた布団から身を起こし、状況を必死に把握しようとする。ベッドに真島さんの姿はなかったが、寝ていた形跡はある。
少し頭が痛い。
「――あ!」
頭痛でわかった。
日本酒を飲んで酔っぱらっていたのだ。
すべての記憶が蘇る。
「……うあ」
記憶があるだけマシか。
いや、ない方が良かったのか。
声にならない呻きをあげ、布団に倒れこむ。
キスをしたのだ。大人のキス。怒りもせずに受け入れてしまった。
夢だと思いたかったが、どう考えても現実だ。
からかわれるに違いない。
しばらく布団の上で呻いていたが、思い出すうちに落ち着いてきた。キスのことはともかく、真島さんはやさしかった。だけど、いつも通りでもあった。甘やかすようなことは言わないけれど、寄り添ってくれていた。
「目が覚めたか」
開いていた扉から覗き込まれた。
奇声をあげそうになったが堪えた。顔が真っ赤になっていたかもしれない。
とにかくまずは、謝ろう。
立ち上がり深々と頭を下げる。
「昨日は、本当すみませんでした……。その、勝手に酒飲んで、うだうだ言って絡んで」
それはどう考えても自分が悪い。
ゆっくりと顔を上げる。
真島さんは払うように手を振った。
「まあ、それはいい。俺もちょっとやりすぎたかと反省しているし」
やりすぎとは、つまり、あれのことだろうか。
キスのことか。
思い出しそうになり、頭を激しく横に振る。
「とにかく、今日からバイトなんだろ。まずは朝食を食べろ」
「はい」
からかわれるかと思っていたので拍子抜けする。本当は優しい人なのかもしれない。いざというときは親身になってくれる。むやみに反発せず、素直に慕うべきだろうか。
洗面所の方へ行こうとしたところで、背後から声をかけられた。
「全部思い出したんだな。記憶が飛んでなくて残念だったな」
振り向くと、真島さんがにやりと笑っていた。
前言撤回だ。
やっぱり、面白がってからかっている。
素直に慕ってなんかやらないぞ。
「あれは、酒のせいなんで! 好きでしたわけじゃないんで!」
「なかなか酷かったな。暴れる小動物を調教するみたいだった」
「――なんだとっ」
手近に何か物があったら投げていたところだが、何もないし、真島さんは笑いながらキッチンの方へ去っていった。
洗面所へ向かい顔を洗う。
俺は酒のせいだけど、じゃあ、真島さんのキスは何のせいだ?
暴れるペットの調教か?
なんだかもやもやするけれど、昨日感じた寂しさは随分と収まっていた。それは、真島さんのおかげだと認めしかない。
鏡に映った顔を見る。
この唇に、あの唇が重なった。
仕掛けたのは自分の方なのに、なんだか、奪われたような気がする。そんなふうに感じてしまうのも、何か恥ずかしいような、落ち着かない気持ちだった。
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