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1月3日
翌朝、テーブルに並んでいたのはトーストではなくサンドイッチだった。
「珍しいね。もしかして俺が真面目にバイト行ってるから、励ましの特別サービスとか。いただきます」
頬張ると、真島さんも隣の席について食べ始めた。
「ついでだよ。昼買いに行く元気なかったって言ってたろ。作ったから持っていけ」
キッチンカウンターに紙袋が置いてある。
「え……」
手に持っていたサンドイッチからレタスがこぼれ落ちそうになり、慌ててかじりついた。
「驚くほどのものじゃないだろ。サンドイッチなんて具材挟むだけだ」
「……でも、ありがとう」
「素直だな」
昨晩の俺の様子を見て、昼食を用意しようと決めたのだろう。そのときも、今朝作っていたときも、俺のことを考えてくれていたということだ。
特別な励ましの言葉はなくても、このサンドイッチに優しさが詰まっている。
喜んでいると思われるのも恥ずかしく、急いで無言で食べて、身支度をしてバイト先へ向かった。
二日目も忙しかったが、少し慣れた分、昨日よりはしっかり動けた。
「藤崎くん、休憩入って」
山田さんに言われて「はい」と返した。
控室は六畳間程度の広さしかなく、ロッカーもあるから狭い。中央に置かれた机は、学校の教室に並ぶものと大差ないサイズだ。椅子に座り、紙袋からプラスチックの保存容器を出す。上に乗せられていた保冷剤を取り、容器の蓋を開けた。
ハムとチーズのサンドイッチを手に取り、口に運んだ。
美味しい。
たぶん真島さんにとっては本当に、たいした手間ではないのだろう。それでも、ただ泊めて、観光地に連れていくだけで充分なはずだ。ここまでしてくれるのは、俺のことを考えてくれるのはなぜだろう。
社長の息子だからなのか。
母親に似た世話焼きの性分からなのか。
わからない。
色鮮やかなトマトとレタスのサンドイッチも食べる。もぐもぐと咀嚼する。
真島さんのことをもっと知りたい。
何を考えているのか。
俺じゃなくても、誰にでもこうなのか。
でも、知ってどうするんだ。
二日後には北海道に帰る。
そのあとは話す機会すらないかもしれない。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、容器を紙袋に戻した。
その日の夜も、前日のように疲労で何もできず、早めに寝た。
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