1月4日

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 ライトアップされた東京タワーの前でタクシーが停まった。脚元に立つと遠くから見る姿とは全然違い迫力がある。眺めて写真を撮るのは後回しにして、まずは入場券を買ってエレベータに乗った。 「いろいろ遊べるスポットも中にあるけど、あまり時間もないし、それはまた東京に遊びに来たときにでも友達と行くんだな」  次も真島さんがつきあってくれるわけじゃないんだ。  喉元まで出かけた言葉を飲み込む。  明日で終わり。  わかっている。  急に、別れが目前に迫ってきた気がする。  エレベータの扉が開き、展望台のメインデッキに出た。 「うわ、すっげー」  煌めく夜景が広がっていた。窓際に駆け寄ってじっくり眺める。高層ビルにスカイツリー。はるか遠くで流れる車のヘッドライト。地上から見る風景とは違う、精巧なジオラマのようだった。  子供みたいに駆け寄ってしまったことに気づき、我に返る。からかわれるだろうか。  隣を見上げる。  視線が合う。  子供だな、って言ってくれたら、すぐに返せたのに。  時間が止まったみたいな長い沈黙。急に視線を逸らすのも不自然な気がする。  何か話をしなければ。  少し離れた隣にいる男女の会話が聞こえてきた。 「この後どうする」 「帰りたくないな」  視線を向けなくても、二人が密着してるのがわかった。指を絡ませているくらいならいいけれど、それ以上のことをしていそうだったので逆方向に歩き出した。 「こんな時間だからカップルばかりかと思ってたけど、そうでもなくて良かった。俺たち以外にも男同士もいるし」  声が上擦らないよう気をつけて、何気ない口調で話す。フロアには友人同士や家族連れもいる。冬休みを満喫してるのだろう。 「男二人だってカップルかもしれないだろ」 「え」  思わず振り返って顔を見てしまう。俺の焦りを知ってか知らずか、真島さんは話題を変えた。 「明日は成田空港まで一緒に行ってやる。昼の飛行機なら午前中には出ないとな。寝坊するわけにはいかないから、観光案内もここで終わりだ」 「真島さんは明日から仕事だよね。大丈夫なの?」 「出社せずに午後から出張だから」 「……ありがとう」  忙しいのに空港まで送ってくれるのだ。方向音痴だからなのか、社長の息子だからなのか、世話焼きの性分からか、わからない。  それ以上の感情など、あるはずないけれど。 「素直だな。そろそろ方向音痴を自覚してきたか」 「言われると思った」  フロアを歩いていると、前方にほかとは床の材質が違う部分があった。長方形の形で透明になっている。近づいて覗き込むと遠い地面が見えた。 「玲は高所大丈夫?」 「恐怖症とかじゃないよ」 「じゃあ、歩いてみろよ」 「真島さんこそ先に歩いてよ。まさか怖いとかないよね」  煽るように笑う。  真島さんはすぐに歩き出し、真ん中で止まってから向こう側へ行った。 「どうぞ」  誘われて、前へ歩き出す。  これくらい平気なはずだ。  歩き出して真ん中で立ち止まり、下に視線を向ける。さすがにゾッとするような高さだった。  でも大丈夫。  そう思って再び歩き出した瞬間、真島さんが正面から俺の肩を軽く押した。 「ちょっ――!」  後ろによろめいて慌てて真島さんの腕を掴む。  心臓が跳ね上がり、飛び出しそうだった。 「何するんだよ! いい歳した大人が」  悔しくて肩のあたりを拳で叩いたが、真島さんは楽しそうに声をあげて笑っている。  胸がどくどく鳴っている。  煌めく夜景に囲まれた展望台は、すぐに一周してしまった。 「帰ろう」  頷くしかない。  もっとゆっくり回れるくらい距離があれば良かったのに。だけど目の前にはエレベータがあって、降りる以外の選択肢はない。  二人で乗り込むと扉が閉まった。  下へと降りていく。  終わりが近づいてくる。
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