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12月30日
年末の空港はスーツケースを持った人々でごった返していた。
どこに向かえばいいのかわからない。案内表示に従って歩けと言われたけれど、表示がたくさんありすぎる。格安航空利用のため成田着だから、海外旅行客も多い。
俺は視線を彷徨わせながら、小型のキャリーバッグを転がし歩いていた。身長は百七十センチあるが、大柄な外国人にぶつかるとよろけそうになる。
十七歳で、初めての一人旅。
北海道の酪農地帯で生まれ育ったので、初めて見る大都会。中学の修学旅行は東北地方だったし、高校の修学旅行は来年だ。
出迎える人々の中には名前や会社名を書いた紙を持っている人もいる。
立ち止まり、周囲を見回した。
圭人はどこだ?
到着口を出たところで見つけると言っていたけれど。
圭人は九才年上の従兄弟で、近所に住んでいたので幼いころよく遊んだ。大学進学で上京してからは、ずっと東京にいるので帰省時にしか会えない。
遠くからでもすぐにわかるだろうと軽く見ていたが、もう少し目立つ格好をしてくれば良かっただろうか。
黒いダウンジャケットにジーンズ。短くも長くもない黒髪。同級生から告白されたことはあるが、見知らぬ人に振り返られるほどの美形ではない。人混みに完全に埋もれている。
周囲のどこにも圭人の姿はない。
電話越しの声を思い出す。
『とにかく、荷物を受け取って出口を出たら動かないでね。絶対だよ』
眼鏡の奥の瞳が心配げに細められているのが、見なくても想像できた。
なんでみんな、俺を方向音痴扱いするんだ?
自宅周辺は見渡す限りの牧草地で、遮る建物がほとんどない。幼いころから知っている道なので迷うことなどなかった。たぶん。迷っていたことに気づかず、近所の人が正しい道に導いてくれていた可能性はある。
一人でも大丈夫と言い張ったのに、とにかく迷うからと、圭人に空港に迎えに来るよう指示したのは俺の父親だ。
それにしても、圭人はどこだ?
探しながら歩いていると、自分のいる場所がどこなのかもわからなくなってきた。
足を止めた。
とりあえず館内図を探そう。
都会に慣れていなくても、それくらいの知恵はある。
少し離れた場所に館内図があったので駆け寄ったが、待ち合わせ場所の名称がわからない。
館内図に両手をついて凝視する。
見ていても何も解決しそうにない。
さすがに少し焦ってきた。
このまま路頭に迷うのだろうか。
もしかしたら圭人も探し回っているかもしれない。
元の場所に戻ろうと勢いよくターンした瞬間、早足の男にぶつかって跳ね飛ばされた。
「うわっ」
よろめいて前のめりになったところを、こちらに向かって歩いてきた男に受け止められ、胸に飛び込む形になってしまう。
ふわりと甘い香りに包まれる。
シャンプーとも色気付いた同級生がつけるものとも違う、少しだけ苦い、大人がつけるトワレだ。
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