天使の嘴

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 真上(まがみ) (りょう)は血に濡れた指で煙草を挟み、煙を吐き出していた。 場所は、誰もこないビルの屋上。 ここ何年も誰も上がって来ていないらしい。 前々から下調べはしていた。 割れた植木鉢や、錆びたフェンスの針金やらが散乱する中に、血で汚れた男が1人、倒れている。 もう、人間というより赤黒い肉の塊に見えた。 「さよおなら♪」 遼は、赤黒いに声をかけ、ピンと煙草を屋上から落とすと、ビルを後にする。 遼は半グレグループの下っぱの1人で、上から依頼される悪いことを、何でもやった。 悪い事をしているとはあまり感じなかった。 父親が亡くなり、母親は遼を捨てて、新しい男と逃げ、遼はたらい回しにされた親戚たちにも歓迎されなかった。 中学に上がり、すぐに不良になり、高校は退学になった。 そんな遼でも、心の拠り所になったのが、今いるグループだ。 手にした事もない大金を貰い、「よくやった」と頭をクシャッと撫でてもらった。その時、初めて人に褒めてもらった事に感動までした。 同じような年代の奴らとはすぐに友達になり、一緒にいる事が当たり前で、皆、遼と似たような境遇で、お互いに痛いほど気持ちが分かる。 だからこそ、居心地もよく、仲間を大事にしていた。 しかし、そんな時、"一度家に戻ってこい"と叔父から連絡が入った。 初めての連絡だったかも知れない。連絡を取り合った事などない、と思う。 無視してやろうと思ったが、何となく、家に戻ってみた。 そんな自分に舌打ちしながら。 叔母が亡くなった。 それが理由だった。 一応育てて貰った恩はあるだろう、線香くらいあげなさいと言われたが、雑に扱われた、要らない子、面倒くさい子と言われ、育てられた。 それが、恩? 何も感じない。 心の中で"ざまあ"と唾を吐く。 とりあえず線香はあげてやった。 そして、自分の部屋だった場所に行ってみた時だった。 真っ白い大きな鳥が、机の上に座っていた。 頭の先から尾まで真っ白だ。 強いて言うなら瞳だけ赤い。 アルビノと言うんだっけか? 「な、なに、人の部屋でこんなでっかい鳥飼ってんだよ……」 と焦ったが、なんだか、そんな感じでもない。 鳥の目の前には白いハンカチが置いてあり、嘴でハンカチをツンツンと突いた。  
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