天使の嘴

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遼は、グループのアパートを去った。 持ち物などほとんどない。 グループの班長は洋司に決まったが、悔しくはなかった。 あいつはいい奴だし、仕事もできる。 遼はジョーカーの言う通り、あまり人と関わりのない山の近くに住んだ。 借り手のつかない古民家で、自分で傷んだ家を直した。 金はある。自分の手で自由に家を改装し、綺麗にしていくのがこんなに楽しくて達成感のあるものかと自分でも驚いた。 ハンカチはと言うと、まるで向日葵のように輝く黄色に染まっていた。 白い鳥をたまに見ることはあっても食べられる事はなかった。 やはり、悪い事をするのがダメだったのか……? *** 遼は天気の良い日に外の壁のペンキ塗りに勤しんでいた。なかなか綺麗にムラなく塗るのは難しい。 数缶ペンキを買って来たが足りないかも知れない、などと考えながら、刷毛を動かしていた時だった。 小さな女の子、小学1〜2年生くらいだろうか? こっちに近づいて来た。 「お兄ちゃん、なにしてるの?」 「な、何してるのって…ペンキ塗ってんだよ」 「ふぅん、この家に住むの?」 「そうだよ、あっち行け、山は危ないから帰れ」 女の子は遼の言う事を聞かず、にこにこしている。 「わたし、菜々子っていうんだー。妹は涼子」 涼子という言葉に自分の名前に似ているなと思い、少し微笑む。 「でも、涼子病気なんだ。ずっと病院にいる。この間折り紙でハート型の折り方を教えてあげたんだ。ほら、ちょっとヘタだけど、ハートの形してるでしょ?涼子がくれたんだよ」 「ふぅん」 遼は刷毛を動かしながら、菜々子の話を聞いていた。 可哀想に、とは思ったが、自分には関係ない。
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