天使の嘴

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「涼子ねえ…病気で死んじゃうかもしれないんだって」 「え…」 遼は手を止めた。 「この間、夜に目が覚めたら、お母さんが泣いてて、そんな話をお父さんとしてた。菜々子、お母さんに"そんなの嘘だ!"って怒ったんだ。お兄ちゃんはどう思う?」 親が泣くぐらいだから、相当重い病気なんだろう。 死ぬのかもしれない。 でも、「死んじまうんだろうな」とは小さい子に言いたくなかった。 しかし、少し前の自分ならあっさり言ったかもしれないが、山でノンビリしてるうちに、罪悪感という人間らしい心が遼の中で、大きくなりつつあった。 ……でも、嘘をついたらまたハンカチが黒く染まってしまうのかも。と遼は口篭った。 「お兄ちゃん?」 「いや、俺は分からないな」 結局、白い鳥に食べられるのが怖くて、菜々子を安心させるような言葉が出てこなかった。 菜々子の目が暗くなる。 「涼子に会ってくる」 帰れと言った時は、帰らなかったのに菜々子は、走って来た道を帰って行った。 遼は刷毛を置き、家の中に置いてある例のハンカチを見に行った。 全体的にグレーに染まっている……… 「くそっ!なんでなんだよ!」 呪われている気分になった。 何が神だ、天使だ。ジョーカーが言った"選ばれた"とは呪われる事に選ばれたのか。 「くそっ…くそっ…」 何故か孤独感が増して、涙が溢れた。 どこで間違えた? その日のペンキ塗りはもうやめた。 *** 数日後、またペンキ塗りを再開させた。 ようやく気分があがってきたからだ。 なのに、菜々子がやってきて、一気にテンションが落ちた。 菜々子の一言目は「昨日から、涼子の病気が酷くなって会えなくなったの。もう本当に涼子は死んでしまうのかも知れない」 「……あまり悪いように考えるな。お姉ちゃんらしく最後まで笑ってろ」 「……」 笑える訳がない、と言った表情だ。涼子に貰ったハートの折り紙を両手で大切に持っている。 遼はため息をついた。 「…はぁ。あー…あれだ。色紙を持ってこい。一緒にハート沢山作ってやるよ。それで妹、応援してやれ。」 菜々子は、ぱぁっと笑顔になると、走って家に戻り、再び遼の元へもどってきた。 菜々子がハートの折り方を遼に教えると器用に綺麗なハートを折っていく。 「お兄ちゃん、上手!」 「はは、こういうのは得意なんだよ」 外が少しオレンジ色に染まるまで、ハートを折り続け、遼は菜々子に「もう遅いから今日は帰れ」と紙袋に沢山のハートを入れて返した。 振り返りながら何度も手を振る菜々子に、片手を上げて見送った。 部屋に戻って、何気にあのハンカチを見ると、今の夕焼け空のようにオレンジに染まっている。 色の意味は分からなかったが黒でない事にホッとした。 にしても、菜々子のあの感じじゃ、明日も来るかもしれない、と思っていたが、それから菜々子は姿を見せず、少々心配したが、家の手入れがまだまだだった為に、菜々子を忘れて家造りに没頭した。
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