天使の嘴

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菜々子が次に姿を見せた時は1ヶ月程経っていた。 手には2つのハートの折り紙。 「久しぶりじゃないか」 「うん、涼子があれから死んじゃってね、大人たちは忙しそうにしているし、私も気分が沈んでなかなか動けなかったんだー」 「そうか、そりゃ大変だったな。今は平気か?」 「前みたいには、まだ元気にはならないけど、少しずつ頑張ってるよ。…それで、お兄ちゃんに報告があるんだ。私、引っ越す事になって」 「そうか、寂しくなるな。引っ越し先でも元気でやっていけよ」 菜々子はコクンと頷く。 「このハート1つはお兄ちゃんに。一つは私の。寂しいことは忘れたいから2人で燃やそうと思って」 「……あーね」 傷付いたことを忘れるにはいいかもしれない。 一斗缶に枯葉といらない細い材木を、ざかざかいれると火をつけた。 「ちょっとトイレ行ってくる。待っててくれ」 遼は貰ったハートの折り紙を戸棚に隠し、適当に新聞のチラシでハートを折った。 菜々子のハートは、自分へのお守りにしたかった。が、照れ臭くて言いづらい。 「おまたせ、さぁ、燃やそうか。俺が先に入れるぞ」 そう言って、急いで作ったハートを炎の中に入れて、角材で押し込んだ。 その後に、菜々子も入れる。 「お兄ちゃん、ホントに私が作ったハート入れてくれた?違う物に見えた気がして」 きっと、嘘をつけばまたあの鳥がやってくるだろう。 しかし、菜々子の事を思えば、自分の事を思えば、一つ残しておいた方がいいと思えた。 痛くて苦しくて恐怖でしかないのに、遼は「菜々子が作った物をいれたよ」と炎を見つめながら言った。 そして……菜々子が帰る。 さて、怖い思いをする時間か。 と、ハンカチを見に行くとハンカチが黒くない。 薄いピンクに染まっている。 「な……どう言う…?」 後ろで、バサッと羽音が聞こえた。 白い鳥だ。 やっぱり、俺を食いに来たのかと、見紛える。
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