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「みてパパ!まっかなおそら!」
女の子が父親に向かってそう言った。
「そうだね。綺麗な茜色に染まってるね。」
父親は優しく言った。
「あかね!わたしとおんなじなまえ!」
そう嬉しそうに笑顔を浮かべる女の子は夕日に照らされ、綺麗な茜色に染まっていた。
その姿を見て、俺は君を思い出す。あの日の君を。
胸から何か込み上げてくるものを感じ、咄嗟に口を押さえた。
「私、東京に行くわ。一生こんな田舎で過ごすなんて嫌。」
夕日色に染まった彼女はそういった。
「…お前が決めたんなら、いいと思う。でも、相当な覚悟がいるぞ?いきなり知り合いもいないところに行くんだから。」
引き止めたい気持ちを押し殺し、俺はそう言った。
「……わかってるわ。そんなこと。でも私はもっと広い世界を見たいの。」
そう言う彼女の手は震えていた。それがなんの震えかはわかった。
「じゃあまた明日ね。」
彼女はそういい、背を向けた。
その背を追いかけたら、それ以前に行ってほしくないと伝えれば、結果は変わっていたのかも知れない。
東京に行った彼女は、2年後に帰ってきた。
帰ってきた彼女はもう俺の知っている彼女ではなかった。詳細は聞かなかったが、どうやら悪い男に引っかかったらしい。借金、身体を売ったなど聞くに堪えない話に俺は耳を塞いだ。
それから毎日俺は畑仕事が終わると彼女のもとへ向かった。とは言っても、他愛もない話をするだけでこれと言って何かをするわけではない。でも、俺が話をしていると時折、昔の力強い、眼差しに戻ることがあった。だから俺は彼女のもとへ通い続けた。
窓から差し込む夕日で照らされた彼女は昔と違い、痩せ細っていたが髪だけはあの頃のように夕日色に染まっていた。
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