庚申塚の神隠し

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民俗学部部長の星宮月渚(ほしみやるな)が部室でコーヒータイムを楽しんでいると、部員の文庫瑠璃(ふぐるまるり)が慌ただしく部室に駆け込んで来た。 「星宮先輩、大変です。」 「どうした?今度は一本ダタラでも撮れたか?」 「違います。ゴリラです。ゴリラが撮れました!」 「アフリカにでも住んでいるのか?」 「違います。庚申様です!」 「ほう、どんな写真だ?」 「これです。深夜に撮った写真なのですが、筋肉モリモリの猿が写っているでしょう?手前に給水タンクがあるけれど、その上には誰も乗っていません。でも向こう側を写したモノには、この通り。これって猿ですよね?」 8853d6ff-506d-4add-8cef-1abfeb0be9eb f545d57c-bfbf-4e6e-8404-768333d6eeb5 「周辺に庚申塚でもあるのか?」 「僕の住む町は庚申塚が多いのですが、昔、庚申塚の庚申様による神隠しに遭って、拐われそうになった事があるのです」 「面白いな、聴かせてくれ」 文庫瑠璃の不思議な話し。 「庚申塚の神隠し」 子供の頃、神社の近くに秘密基地を持っていました。 樹木が鬱蒼とした林の中にです。 林の中には開けた場所があって、周囲から見えないその場所が、秘密基地だったのです。 ある日、友達の黒石君と秘密基地に行くと、おかしな装束の男女二人が石碑の前で何かしていました。今思うと、それは神主さんと巫女さんなのですが、まだ幼かった僕は神主さんと巫女さんを初めて見たので、おかしな装束だと思ったのです。二人がごそごそやっていた石碑とは庚申塚だったのでしょう。しかし、それを知らない僕は、お墓だと思い、秘密基地の事を「お墓の所」と、呼んだりしていました。 二人の内の巫女さんの方が、僕に近付いて来て言いました。 「こっちへ来なさい」 そう言ってコチラに手を伸ばして来ます。 巫女さんの顔色と瞳は灰色で、とても怖くて、踵を返して逃げ出そうと振り返ると、一緒に居た筈の黒石君が居ない。林の外に向かって走りました。 「黒石!黒石君!」 叫んでも返事はない。 林の外にも姿はない。黒石君が消えてしまった。 林の外を探しても居ないので、中に戻ろうとすると、林には居なかった筈の黒石君が林の中からヒョイっと姿を現したのです。 「黒石君は消えていた間、何処に居たんだ?」 「どちらかが神隠しに遭っていた、或いは遭う寸前だったのだと思います」 庚申塚の神様がどちらかを誘拐しようとしていたワケだな?」 「その庚申塚は、最近分譲されて民家になってしまいました。その民家を、夜、撮影したところ、このゴリラが写ったのです」 「庚申塚があった辺りにバナナでも供えておけ」 「やっぱりゴリラですか?」 「山童と云う奴かもしれない。山に住み怪力を持つ猿の妖怪だそうだ。河童が山に帰った姿だと云われ、河童と同じく相撲を好む。筋肉モリモリなところがソレッポイだろ?」 「千代の富士ッポイです」 「奴も、山童かもしれん」 了
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