秘密の時間※(最終話)

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※ ※ ※ 『最近水島滋之の車に、ペガサスのエディが、乗ってるのを見たんだけどなあ』 『へぇ、一人でか?』 『うん、しかも深夜だぜ。水島氏の仕事部屋のマンションから一緒に出てきたんだ。どう考えても怪しいよな』 『そこはレッスン室か?』 『レッスン室兼仕事場らしいけど、普通なら他のメンバーとか、マネージャーとかが一緒だろう? さあ──何のレッスンをしてたんだか!』 ※ ※ ※ もう少しで週刊誌に出るところを、慌てて榊原プロが、手を回したので、スキャンダルは免れた。 エディと過ごすことで、ただでさえ多忙な、水島の仕事は遅れがちになっていた。 その事に気付いた人物がいた── 夜、ライブハウスのステージが終わった時、控え室の廊下の隅で、エディは呼び止められた。 「エディ、お疲れ様」 「あ、長谷部先生、お疲れ様です」 作詞家の長谷部晃だった。エディはきっとまた何か叱られる、と思って緊張した。 長谷部はポケットから何かを取り出し、手を広げて見せた。 「忘れ物だよ」 長谷部が差し出した、手の平には、丸いブローチがのっていた。18金で、小さなダイヤが幾つか付いている。エディが母親からもらったものだ。 「これ、君のだろう」 「はい・・・」  それは、水島の寝室のベッドの上で、外されたブローチだ。 ベッド脇の棚に置かれた筈だ。 なぜ水島先生じゃなくて、この人がそれを持って来たのか── あの部屋に、この人も入ったのか──  ベッドに乗らないと、気付かない場所に置かれた物を、この人は見つけたのか── エディは一瞬で、二人の関係を理解した。 そして僕と、水島先生の事を咎めたんだ・・・ 大人同士の、長い間に築かれていた、密やかな関係を垣間見た気がして、エディは黙ってしまった。  「もう一人で、水島のレッスン室に行ってはいけないよ、わかったね」 短い沈黙のあと、エディは小さく答えた。 「わかりました──先生」              (終)
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