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アハハハハーーーー!!!と、実に耳障りな女の高笑いが、俺の耳元で響いていた。
いつまで経っても、このけたたましい笑い声は、止まる気配はなく、俺はうんざりどころか、耳栓なるものを欲している。
「あーー!クロッド、あんた、なんで、屋根裏部屋?!」
ハハハーーーー!!!と、女は、再び、大笑いした。
で、メイド。お前なにが、そんなにおかしんだよ。ってか、お前、どんだけ飲んでんだ?!
「うっせぇよ!人の住みかにケチつけられるほどのご身分かよ!」
言って、俺は、背負っている女を、下ろした。
こいつを、背負ったままだと、部屋の鍵が、開けられない。それに、もう、おぶっている意味もない。
「あー、なにすんのー、レディーを、床に放り投げるなんてさぁー!」
いやいや、レディたるもの、そんな、へべれけに、なりますか?
そして、行く先ないから、泊めろって、そんな、無茶言いますか?
そもそも、お前は、御屋のメイドで帰る場所があるだろう。なんで、俺んちへ、やって来る?
数々の疑問を抱きながら、俺は、馬鹿正直に、女を背負って、自分の部屋まで階段を登ってきましたよ。そして、案の定、こいつの騒がしさに、目くじら立てた、大家のばあさんが、部屋のドアから首つきだし、「レアードさん、うちは、連れ込み宿ではありませんから」と、嫌みったらしく言った後、バン、と、大きく音を立てて部屋のドアを閉められましたっ。
こっちは、言い訳のひとつする暇もなく、なんだか、俺が、女を連れ込んでる事になってしまったようで。
いや、こいつが、俺の女なら、もとい、気に入って、連れ込んでいるなら、何を言われても、左様ですなと返せるんだが。
けれど、あくまで、ただの顔見知り、そして、女の方から、連れて行けと、絡んできた。
言っとくけど、仕方なく、だ。仕方なく。
あのまま、ほっとく訳にもいかず、なんて、俺ってお人よしだろうと、思いつつ、こいつを運んで来ただけなんだ。
女を、ここまで背負って来たのと、俺も、いくらか飲んでる為に、部屋のカギを、鍵穴に差し向こんでも、鍵はくるくる回り、ガチャガチャ音をたてるだけだ。
チッと、舌打ちしつつ、何度目かの挑戦で、やっとドアを開ける事ができた。
すかさず、勝手に床に座りこんでる、女をひっぱり上げて、部屋へ、押し込み、ドアを閉めた。
これで、多少騒いでも、というか、ここ、屋根裏は、俺だけの部屋しかないから、誰の目ないのだが、廊下にいると、吹き抜けの階段部分から、こいつの騒がしさが、丸聞こえになる。部屋の中なら外へ漏れることもなかろう。
って、なんで、俺が、こんなにも気をつかわなきゃーいけねぇんだ?
まあ、夜が明けたなら、伯爵の所へ戻せばいいか。って、さっさと、辻馬車でも拾って、こいつが働いている、伯爵の御屋敷へ、送り届ければよい話なんだけど、俺は、パトロンである、その伯爵の屋敷の有りかを、実は知らない。そして、女は、泥酔しきっている。つまり、御者へ目的地を告げられないという訳で、こうなったって、ことなんだ………。
時は、少しばかり、遡る──。
俺は、なけなしの金を握り、下宿の近くにある、パブにくりだした。
まあ、それが運のつきだった。そもそも、なけなしの金を、飲み代に使おうという魂胆が、神の怒りを買ったのか、店に入ったとたん、踵を返そうと思った。
「クロッドよ!皆、天才画家のお出ましよー!」と、叫ばれたのだから。
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