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終電
終電にも関わらずに寝過ごしてしまって、そのまま見知らぬ土地まで来てしまった。なんて話しはよく聞く話しで、もしかしたら経験したことのある人もいるかもしれない。
疲労からか、あるいはアルコールによるものか。抗えない程の睡魔に襲われている時、電車の揺れとはやけに心地良く感じたりする。そんな環境のせいもあってか、寝過ごせないと分かってはいてもついつい眠ってしまう。そんな人も少なくはない。
最終電車とは、そんな睡魔との戦いの場でもあるのだ。
──今夜も、その戦いに敗れた男が一人。
終電が走り去ってから数時間後の、まだ朝日が昇り始める前の午前四時頃。肌寒さと身体の痛みに目を覚ました男は、瞼を瞬かせると空を見上げた。
(──ここは……、どこだ?)
記憶を辿るようにして視線を彷徨わせると、ようやくそこが線路の上であることを理解できた。
(何故、こんなところに……?)
呆けた頭でボンヤリと考えてみるも、どうにもその理由が分からない。
(…………。確か、寝過ごして終点で目が覚めて──それで、どうしたんだっけ……?)
慌ててホームへと飛び出ると、そこが終着駅であったことまでは覚えている。生憎と終電に乗っていた為、どこともわからない見知らぬ土地で一夜を明かす羽目になってしまった。
その事実に意気消沈しながらも、フラフラとおぼつかない足取りでホームを歩き始めると、自らの足につまづいてグラリと傾いた身体──
(──! ……そうか、ホームから落ちたんだ)
ようやくそこまでの出来事を思い出すと、男は鈍痛を訴える身体をゆっくりと起こした。
乗り換えもない田舎の終着駅ということもあってか、恐らく他に乗客も乗っていなかったのだろう。そのせいもあってか、ホームから落ちた事に気付かれることもなく、そのまま気絶していたらしい。
酒をしこたま飲んだおかげか、身体の痛みは思ったよりも少ない。その点だけは唯一の救いだった。
けれど、取り返しのつかない事態に気付いた瞬間、男は血の気の失せた顔を引きつらせると愕然とした。
これでは、今朝の出社には間に合いそうもない。それどころか、自宅にすら帰る術がないのだ。
なにせ、足がないのだから──。
【解説】
線路に落ちた男に気付くことなく、最終列車はそのまま回送へと切り替わると、男が倒れている線路を走って入庫先へと走り去ってしまった。
足がないとはまさにそのままの意味で、目覚めた男が目にしたのは、その回送列車に轢かれてしまった自分の身体だったのだ。
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