USBメモリー

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今日は告別式がある。憂鬱だ、式の参列中に遺族の方に挨拶をした。当たり障りの無い言葉を交わした後に遺族から 「あなたが大野さんですか?」と意味深な言葉を言われて呆気にとられた。「うちの子と仲良くしてもらって有難うございます。」母親だろうかと考えているとUSBメモリーを渡された。 「うちの子が書いてた日記にあなたの事を書いていたので良かったら読んでやってください。」正直何を書いてあるのかと言う好奇心と不安が入り混じって複雑な感情だった。 USBを見つめながらポケットにしまった。この日も告別式が終わってからまた仕事に戻った。それからまた目まぐるしい日が経ってUSBの事を完全に忘れていった。 そんなある日、上司から新人を取る話が上層部で決まったと話された。やっと少しは仕事が緩和される安堵と新人が続くかと不安が入り混じって訝しげな顔をしたのだろう。 上司に「あんまり嬉しく無さそうだな」と言われた、「前々から大野や田中が人を増やして欲しいと言ってただろう」と続けて言われた。 今回の田中の件もあって急遽、上層部で決まったようだった。 正直に新人が続くのか不安だった。「ウチみたいな中小企業は大変だから続いていける新人がいるとは思わない」と建前を言った。 このブラック企業という言葉は心に留めて言わなかった。言ったところで何も変わらないし、上司も分かっている。殆どの中小企業は同じようなものである。定時で終わらない仕事を残業して終わらす。それでまた、人が人である事を忘れる。自我を思い出した時に逝ってしまう田中のように。。。と思ったのと同時にUSBの事を思い出した。
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