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サプラーイズ!
玄関前はウッドデッキになっていて、二階はバルコニーになっている。バルコニーの手すりは、白く塗られているのがとても可愛いい。エントランスの横には大きな窓があり、カーテンは開いている。
五段ある階段をのぼると、広いウッドデッキになっている。そこには、長椅子が二つにローテーブル、それから揺り椅子が二脚置かれている。すべて木製。こだわりが感じられる。
玄関扉までは、十数歩はありそう。
感心している間に、ジークがさっと前に出て扉を開けてくれた。
お礼を言い、いよいよログハウスの中に足を踏み入れた。
が、何の変哲もないエントランスである。人の気配がまったくない。
エントランスの奥に向かって右側に階段がある。
エントランスじたいは、シンプルである。装飾といえば池の絵だけで、あとはありきたりなチェストが置かれているだけ。
池の絵は、階段とは反対側の壁に飾られている。
絵の池は、ログハウスの前の池に違いないわね。
すごく上手いわ。
あまり絵に詳しくはない。だけど、なぜか心が震えた。
微風でさざ波が立ち、水草や畔に咲く花が揺れているのがわかる。カモが五羽、ゆったりと浮かんでいる。さきほど見たのと同じように、桟橋の杭にボートがつながれていてわずかに揺れているのが感じられる。
そして、水面は陽光で輝いていて、さざ波がアクセントを添えている。
池や湖や海の絵は、暗い感じのものしか見たことがなかった。だけど、この池の絵は明るい感じがする。
いいえ。明るいわ。気分が高揚してくる。
いつの間にか、その池の絵の前でじっと見つめていた。
メガネの汚れを乗馬服の上着の裾でさっと拭き取り、もう一度見直してみた。
「絵が好きなのですか?」
ジークとシュッツが、うしろから近づいて来た。
「残念ながら、あまりよくわかりません。いままで、美術館などで鑑賞するという機会があまりありませんでしたから。宮殿や屋敷に飾られていることはありましたが、チラッと見るだけでした。ですが、この絵はなぜか惹かれるのです。バーデン帝国の有名な画家の作品ですか?」
尋ねると、二人は同時に笑った。それこそ、お腹を抱えるようにして。
「失礼いたしました。この絵は、そのような大それた絵ではありません」
「そうなのです。ただの素人の手慰みというやつです」
ジーク、それからシュッツは、そう言ってからもまだ笑っている。
「チカ。その奥が居間です。どうぞ」
ジークが手振りで奥を示してきた。
もう一度絵を見た。
勇気をもらった気がする。
そして、奥へと向かい居間の前に立った。
「中にどうぞ」
つぎは、シュッツが急かしてきた。
扉のノブをつかむ手が、緊張で震えている。
一瞬、この中にだれもいないかも。などと考えた。だけど、それはないわよねと考えなおした。
だれもいないのであれば、二人は居間ではなくだれか人のいる場所に案内するはずですもの。
ノブをゆっくり回し、そして扉を開けた。
その瞬間……。
「お誕生日おめでとうございます」
「お義母様、おめでとうございます」
歓声と拍手が飛んできた。
まさしく、飛んできたという形容がピッタリ。
どういう状況なのか理解出来ず、頭の中が真っ白になってしまった。
当然、頭も体も固まってしまっている。
凄い衝撃があり、気がついたら両脇から抱きしめられていた。
「いまかいまかとお待ちしておりました」
「やっとお会い出来ました」
わたしを抱きしめているのは、二人のレディである。
背が高くてまばゆいばかりのレディたち。
じょじょに驚きが覚めてきた。
二人のレディは、どちらも金髪碧眼で見たこともない美しいレディたちである。
知的な美しさと溌溂とした美しさ。対照的な美しさだけど、まったく嫌味っぽくなくてナチュラルなきれいさである。
唇に薄くルージュを塗っているくらいで、他は化粧をしていない。
同じレディというには、わたしはチビでメガネでサルっぽすぎる。
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