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もちろん、答えはイエスです
「あの、陛下?」
「ほんとうに? チカ、ほんとうにいいのか?」
「もちろんですとも。陛下が気がかわらないかぎり、あなたに嫁ぎたいのです」
「やったあっ!」
彼は、まるで少年みたいにはしゃぎはじめた。
その様子が微笑ましすぎる。
「チカ、ぜったいにしあわせにする。この世のどんなしあわせ者より、ずっとずっとしあわせ者にする。そして、愛をいっぱいいっぱい注ぐ。愛して愛して愛しまくる。重いと思われようとチカがおれを嫌いになろうと、おれは生涯きみだけを愛し続ける。それから、何よりも大切にする。いつもやさしくするし、気を遣う。どんなことからも守るし、かばいもする」
そして、また抱きしめられた。今度は、先程とは違ってやわらかく。ちゃんと加減してくれている。
「チカ、心から愛している。全身全霊をもってきみを愛している」
抱きしめられたまま、皇帝はささやき続ける。
「義母上。これでおれも義母上を慕うことがます」
「義母上。陛下、いえ、父ともども義母上を大切にし、守ります」
「お義母様のことは、わたしたちにお任せ下さい」
「お義母様。大切にしまくりますから、覚悟なさって下さいね」
これまで家族に縁のなかった亡国の王女のわたしが、たらいまわしにされた挙句に行き着いた先。
それがここ。ここが終着地点。そして、ここが出発地点。
二十五歳離れた夫。それから、三歳年長の双子の義理の息子たちとその嫁たち。
夫は、「獅子帝」と異名を持つ大国の皇帝であり大将軍。義理の息子たちは、大国の強軍の参謀と副将軍。その嫁たちは、暗殺専門の元諜報員。
すごすぎる家族だわ。すごすぎてピンとこない。
だけど、家族にかわりはない。
無為で無感情で無知で、人生を諦観していた。終わりだと思っていた。
それなのに、それなのに……。
こんな人生の転機があるのね。つくづく不思議でならない。
これが、わたしの第二の人生の始まりなのね。
「あらためて、チカ。誕生日おめでとう」
「ありがとうごさいます、陛下」
リタとジークがお茶を淹れ直してくれた。それから、クッキーの追加を運んでくれた。
すっかり落ち着いた皇帝は、いまはもうクラウスのときのように堂々としているように見えなくもない。
わたしもまた、彼がクラウスだったときと同じようにリラックスしている。
「われわれの家族になってくれたあなたに、いまからいろいろ話をしなければならないのです。その前に、誕生日の贈り物のことを伝えておきたいのです」
ジークは、ヤンチャ系の美しい顔にやわらかい笑みを浮かべた。
「プレゼントなどと、そのお気持ちだけいただいておきます」
「陛下、あなたが伝えますか?」
「いや、ジーク。まだドキドキがおさまらない」
ジークは、わたしにウインクしてから皇帝に尋ねた。
まだドキドキがおさまらないですって?
堂々とした態度と内面は違うのね。
「では、おれが。義母上。先程も伝えましたが、あなたの贈り物のことはみなでいろいろ案を出し合いました。やはりイヤな物をもらっても、それはただの押し付けにしかなりません。それで、全員一致で出た案があります」
彼は、そこでいったん言葉をきった。
なにかしら? すごく気になる。
というか、つい先程気持ちだけいただいておくって言ったのに、すっごく期待しているじゃない。
ど厚かましすぎやしないかしら。
だけど、贈り物なんてもらったことがない。贈り物をもらったら、人ってどんな気持ちになるのかしら。
ワクワク? ドキドキ?
すくなくとも、いまはすごくワクワクしている。
こんな気持ちも、ほんとうに小さい子どものときには経験があるのかもしれないわね。
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