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サプライズは続く
「あ、あの……」
無視されたり無反応だったり、反応はあっても蔑まれたり虐められたりということを想定していた。だから、それに対する覚悟や心構えをしていた。
この反応は予想外すぎる。まったくの想定外だわ。
どんな反応をすればいいのか、どう感じればいいのかがわからない。
「ああ、そうでした。お義母様、わたしは第一皇子の妻のリタ・ザックスです」
「わたしは、第二皇子の妻のゾフィ・ザックスです」
彼女たちは、わたしを熱すぎる抱擁からやっと解放してくれた。
「その、チカ、チカ・シャウマンです」
「なんて可愛らしいお義母様なのかしら」
「ほんと。でも、お義母様に可愛らしいだなんて失礼ではないかしら?」
「まぁっ! そう言われてみたらそうよね、ゾフィ。お義母様、ご不快な思いをされたのでしたら申し訳ございません」
「いえ、だ、大丈夫です。ただ、可愛らしいだなんて言われたことがなくって……」
「ええええっ。こんなに可愛らしいのに。あら、また言ってしまったわ」
「リタ、あなたはそそっかしいから」
「そうよね」
二人は、クスクス笑い始めた。
笑い方が可愛いわ。それに栄えすぎている。
「さあ、食堂に行きましょう。バースデーパーティーの準備は整っています」
「腕によりをかけてお料理を作りました」
二人は、わたしの手をそれぞれ握ってひっぱりはじめた。
「ゾフィ、いやだわ。そんなことを言ったら、どんな素敵で美味しい料理かと勘違いされてしまうでしょう。お義母様、見た目や味はあまり気になさらないで下さいね。ですが、お義母様のお誕生日が思い出深くなるよう、心を込めて作ったことにかわりはありませんので」
リタは、そう言いながらもゾフィ同様ぐいぐいとわたしの手をひっぱり続けている。
お誕生日?
そうだった。今日はわたしの誕生日だった。
だけど、どうして彼女たちが知っているの?
頭の中は疑問だらけ。
そして、この大歓迎ぶりに困惑どころか混乱しまくっている。
もしかして、罠? うれしくさせておいて、ドーンと突き落すとか?
だけど、彼女たちがそんなまわりくどいことをする意味も価値もないわよね。
それに、彼女たちの夫、つまり双子の皇子たちは? それをいうなら、かんじんのわたしの夫、「獅子帝」はどこにいるの?
居間のもう一つある扉の向こうが食堂だった。
まあっ!
食堂全体に色とりどりの花が飾られ、大きな紙にきれいな字で「ハッピーバースデー」や「ようこそ」と公用語で記されている。
そして、食堂にある長テーブル上には、料理が並んでいる。
そのタイミングで、こちら側とは違う扉からエプロン姿の男性が二人入ってきた。
「ジーク、それにシュッツ?」
なんと、ジークとシュッツだった。
両手に料理皿やパンなどを持っている。
リタとゾフィの予想外すぎる歓迎に驚きすぎて、彼らのことをすっかり忘れていたわ。
というか、どうして彼らがエプロンを? 「獅子帝」は、バーデン帝国軍の参謀や副将軍にまで給仕をさせるわけ?
「さあ、座って下さい。陛下は、少し遅れるそうです。せっかくの料理が冷めてしまいます。先にパーティーを始めましょう」
何が何やらわけがわからないまま、ジークが上座の右サイドの椅子をひいてくれた。せっかくだから、素直に席についた。
リタは向かい側の下座の席に、ゾフィはわたしと同じ側の下座の席につく。
すべての料理や飲み物を運び終えたらしいジークとシュッツは、エプロンをとった。
ジークはリタの隣に、シュッツはゾフィとわたしの間に、それぞれ椅子のうしろに立った。
「チカ。いえ、義母上。だまして申し訳ありません」
ジークが椅子に座ることなく言いだした。
「じつは、おれたちが『獅子帝』の息子なのです」
「はい?」
彼の言葉を理解するまでに時間がかかってしまった。
「えええええっ? だって、皇帝陛下の息子って双子……」
そこではたと気がついた。
そうだわ。双子がかならずしもそっくりというわけではない。
二卵性双生児だとすると……。
バカね。双子はそっくりだと思い込んでいたわ。
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