家族からの誕生日プレゼント

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家族からの誕生日プレゼント

 無意識の内に、ジークの方へ上半身を乗りだしていた。  いまのわたしの表情って、きっと期待に満ち満ちているわ。  全員に「厚かましい」って思われていないかしら。  そんなふうに葛藤していると、ジークがこめかみのあたりをトントンと指先で叩いた。 「えっ、こめかみ?」  頭痛とか目の疲れとかに効く薬草か何かかしら?  それをこめかみに貼る、みたいな?  みんながいっせいに笑った。 「お義母(かあ)様、可愛いですわ」 「ええ、とってもキュートな反応でした」  リタとゾフィが、なぜか褒めてくれた。 「メガネですよ、義母(はは)上。メガネはいつからかけているんです? というのも、度数が合っていないのではないでしょうか。陛下から、ときどき見えにくそうにしているとききました。たしかに、ときどきですが目を細めたりしています。まずは目の医師に診てもらい、ちゃんとしたメガネを処方してもらった方がいいと思います。陛下がすでに目の医師を手配してくれています。陛下、明日ですよね?」    ジークが尋ねると、皇帝はひとつうなずいた。 「視力が合っていないだけでなく、メガネの枠も合っていないかもしれません。目に合ったメガネを装着しないと、よりいっそう視力が悪くなってしまいます。目そのものによくありません。それに関連して、頭痛や肩こりが起こる可能性もあります」  ジークの説明に、なるほどと納得してしまった。 「それが、気がついたらこのメガネをかけていました。枠が歪んだりネジがとれたりするのを、自分でどうにかしてだましだまし使っています。ジーク、あなたの言う通りです。たしかに、見えにくいときがあります」 「義母(はは)上、メガネを外したときに周囲は見えますか?」 「シュッツ、そうですね。眠るときや洗顔やお風呂に入るときに外すくらいですが、ボーッとしている気がします。たとえば、鏡に映る自分がボーッとしている感じです。どれほど見えるか、そういえば試したことがないかもしれません。ほら、わたしって『メガネザル』ですから、メガネが体の一部という感じですし」 「義母(はは)上。差し支えなければ、メガネを外してもらってもいいですか? 裸眼で、ぼくとゾフィは見えますか?」  シュッツがそう尋ねてきた。彼とゾフィはローテーブルをはさんだ向かい側の席ではなく、すこしだけ離れた椅子に座っている。 「もちろんですとも。だけど、「メガネザル」がもっとひどいおサルさんになるだけだと思います」  お茶を飲もうとカップを持ったタイミングだったので、とりあえずカップを受け皿の上に戻した。  そのタイミングで、皇帝がカップを持った。  そういえば、人前でメガネを外したことがないような気がする。  そんな機会、あるわけなかったのですもの。  両手でメガネのつるをつまみ、そっと外した。  皇帝は何気ない感じでカップに口をつけているけれど、わたしを見つめているのを感じる。  どうせひどい顔だから、笑ってもらうのも一興かもしれないわね。  そんなふうに思いついた瞬間、「ブフッ!」と音がした。  具体的には、皇帝が隣で紅茶をふきだした音である。  シーンと静まり返った。  静かだった居間が、よりいっそう静かになった。  はい?   ひどい顔というのはわかっているけれど、反応がないよりかはいっそ大笑いしてくれた方がいいのだけれど。  だって、無反応だといたたまれないから。 「義母(はは)上、ほんとうに自分の顔を鏡で見たことがないのですか?」 「お義母(かあ)様、ほんとうに? ほんとうに鏡の中の自分が見えないのですか?」 「お義母(かあ)様、なんてことなのかしら」 「義母(はは)上、とんでもないことですよ」  ややあって、シュッツ、リタ、ゾフィ、ジークの声がきこえてきた。  向かいの長椅子に座っている、ジークとリタ。それから、椅子に座っているシュッツとゾフィ。彼らの姿はボーッとしている。  ジークとリタは、なんとなくそこにいるということはわかる。だけど、少し離れているシュッツとゾフィは、人間(ひと)というくらいで男性かレディかの区別もつかない。  というか、わたしの顔ってそんなにひどいのかしらね?
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