皇帝陛下はデリカシーなさすぎ

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皇帝陛下はデリカシーなさすぎ

「陛下のバカッ!」 「陛下ったら、デリカシーがなさすぎます」  リタとゾフィが同時に叫んだものだから、驚きのあまり体がビクッとしてしまった。 「ああ、そうですよ。そんなことを言ったら、だれだって誤解してしまいます」 「ええ。ぼくだっていまのはショックを受けますね」  そして、ジークとシュッツは怒り心頭って感じである。 「お義母(かあ)様、陛下を許してあげて下さい。けっしてそういうつもりではないのです」 「リタの言う通りです。誤解です。陛下の言い方が悪いのです」 「義母(はは)上、陛下のあなたへの愛は本物です」 「そうです。けっして政治的に利用しようとか、カモフラージュにするというわけではありません。だいいち、陛下にそんな器用な真似は出来ませんから」  リタ、ゾフィ、ジーク、シュッツがわたしに言った瞬間、ラインハルトの渋くて美しい顔にハッとしたものが浮かんだ。 「ああああああ、おれはいったいなんということを言ってしまったんだ。い、いや、ちが、違うんだ。ほんとうに違う。違うったら違う」  ラインハルトの慌てっぷりが可愛らしい。  ええ。違うしか言っていないけど、ほんとうに違うってことはわかったわ。 「大丈夫ですよ、陛下」  だから、笑って彼の手をギュッと握りしめた。  すると、ラインハルトだけではなくジークたちもホッとしたみたい。 「陛下はだまっていてください。あとは、おれが説明します」 「義母(はは)上がほんとうに心を開いてくれてもう大丈夫とわかるまで、陛下は義母(はは)上に近づいたり話をしたりしないほうがいいかもしれませんね」 「そ、そんな……」  ラインハルトは、ジークとシュッツに言われてごつい体を小さくしてイジイジしている。  その姿に、もう何度目かのキュンキュン状態になってしまった。  だけど、ジークが口を開いたので彼の話に意識を集中した。  皇帝や皇子の座は、けっして安泰ではない。ラインハルトとジークとシュッツは、その座に執着しているわけではない。三人とも、ひきずり降ろされるのならそれでもいい。あるいは、殺されようとするならば、それはそれで撃退するだけのこと。  正直なところ、そんな生活に飽き飽きもしている。  彼らは、軍人として生きるだけで充分なのである。  だけど、その代わりになる者が問題なのだ。  いまの時点で、宰相が意のままに操れる皇帝候補はいないわけではない。暗殺されたラインハルトの実父の腹違いの弟、つまりラインハルトの叔父がいる。  もしくは、宰相の娘がラインハルトとの子を産めば、その子が皇帝になる。  いずれにせよ、宰相がすべての権力を手に入れる。  そうなれば、軍は弱体化してしまう。それとは別に、帝国のあらゆる人々に負担がかかってしまう。  圧政は、かならずや国を亡ぼす。  その為、ラインハルトとジークとシュッツは、表向きは仲が悪いように演じているという。野心と強欲を剥き出しにし、おたがいに牽制しまくっているらしい。  ラインハルトは皇帝の座を狙う息子たちを警戒し、牽制し続けている。そして、ジークとシュッツはおたがいに張り合いながら皇太子や皇帝の座を狙っている。  そういう構図を描き続けている。  というわけで、ジークとシュッツの妻であるリタとゾフィもまた仲が悪く見せかけている。  また納得してしまった。  ジークとシュッツが迎えに来てくれて別荘に向っているとき、二人は仲が悪かった。だけど別荘(ここ)ではおたがいを思いやり、息もぴったり合っている。  そういう訳があったのね。  だけど、ずっとこのままなのだったら、気が休まらないのではないかしら。仲が悪いふりをするって、ほんとうに仲が悪いよりもずっと疲れるはずよ。心も痛くなるに違いない。
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