義理の娘たちは暗殺者

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義理の娘たちは暗殺者

「演じなくてもいいように、どうにかならないのですか?」  思わず尋ねてしまい、慌てて謝罪した。 「いらないことを尋ねてしまい、申し訳ありませんでした。陛下たちは、いろいろ考えた末での行動なのです。わたしが尋ねるまでもありません」 「いいのです、義母(はは)上。たしかに、いままではこういう方法でしか対処出来ませんでした。いえ、おれたちに対処する勇気や決断力がなかったのです。しかし、義母(はは)上をこうして迎えしてあなたを見ていると、たしかにこのままではいけないことをあらためて自覚しています」 「ジークの言う通りです。せっかく義母(はは)上に来ていただいたのに、同じように演技をしてもらうのは忍びない」 「ジーク、シュッツ。わたしのことならどうか気にしないで下さい。わたしは、陛下やあなたたちの足をひっぱらないよう努力をするだけです。うまく演技が出来るかどうかわかりませんが、精一杯演じてみせます」 「義母(はは)上、ありがとうござます。いずれにせよ、宰相たちとは戦わねばなりません。あとは、その手段や方法や時期です。誤ってしまえば、われわれ、いえ、このバーデン帝国は破滅します」 「それ以前に、チカが傷ついてしまう。それは、ぜったいにさせない」  ジークの言葉に、ラインハルトが静かに言った。 「わかっています、陛下。おれやシュッツも、リタとゾフィのことが大切ですから。正直、おれは国云々よりもリタを守りたい」 「ぼくもです。ゾフィのことが大切ですから。もっとも、二人ともぼくらが守る必要などないでしょうけど」 「そんなことはないわ、シュッツ。守ってくれる人がいるからこそ、わたしたちも戦えるのだから」 「そうよ。ジーク、頼りにしているわよ」  ゾフィとリタは、それぞれの伴侶の頬に軽く口づけをした。  まあっ!  ドキドキしてしまう。  それはともかく、なんて素敵なカップルなのかしら。こんな素敵な息子や娘たちの義母だなんて、うれしくなってしまう。  とはいえ、全員わたしより年長だから、えらそうなことは言えないのだけれど。 「義母(はは)上、のろけて申し訳ありません。とりあえず、いましばらくは家族以外のだれかがいれば、仲の悪いふりをしていただけますか? たとえ侍女や執事たちの前でもです。皇宮の使用人たちは、おれたちの演技に気がついています。ですが、暗黙の了解で気がつかないふりをしてくれているのです。全員が全員ではありませんが、スパイまがいのことをしている者もいます。本人にスパイをしているという自覚がない場合もありますので」 「もちろんですとも、ジーク。先程も言った通り、わたしにどれだけ演技が出来るかわからないけれど、あなたたちのこれまでの努力がムダにならないようにがんばります」  わたしのせいで彼らのこれまでの努力がムダになってしまったら、「ごめんなさい。ドジってしまったわ」などと謝罪するどころの騒ぎではなくなってしまう。 「ひとつだけ教えてもらってもいいでしょうか? もしも答えられないとか都合が悪いとかでしたらかまいません」 「義母(はは)上、もちろんです。どのようなことでしょうか。陛下への質問ですよね?」  シュッツに問い返され、首を左右に振った。 「いいえ。間接的には陛下への質問になるかもしれませんが……。先程、あなたたちは仕事で出会ったと言ったような気がするのですが……」 「わたしたちのこと、ですね? ええ、お義母(かあ)様。わたしたちでしたら、仕事で出会いました」  リタは、そう答えてからクスクス笑い始めた。ゾフィ、それからジークとシュッツもいたずらっ子みたいな笑い方をしている。 「どういう仕事で出会ったかという質問ですよね?」  ゾフィが笑いながら尋ねてきた。 「ええ、ゾフィ。その通りです」 「もちろん、暗殺の仕事です」 「ああ、暗殺ですね……」  ゾフィが「当然でしょう、それが何か?」的にサラッと言ったものだから、納得しそうになってしまった。  暗殺って?  ああ、なるほど。ジークとシュッツが、彼女たちにだれかの暗殺を命じたときに出会ったわけね。 「わたしとゾフィは、ジークとシュッツをこの世から消し去るよう命じられました。それで、二人で彼らのもとを訪れたのです。もちろん、彼らをこの世から消し去る為にです」 「えええええええっ! で、では、仕事ってほんとうの意味での……」  衝撃的すぎるわ。  どこをどうやったら、というか、どんな心情だとこのように夫婦として仲睦まじくすごせるわけなの?  自分を殺そうとした相手と、あるいは殺すはずの相手とラブラブでいられるのかしら。  不可思議すぎる。それから、謎すぎる。
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