衝撃的な一日だった

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衝撃的な一日だった

「お義母(かあ)様、わたしたちの馴れ初めについてはまたゆっくりきいて下さい。すっごくロマンチックですし、スリリングだったのです」 「リタの言う通りです。あれはほんとうにドッキドキでキュンキュンの展開だったわ」  リタとゾフィは、うっとりした表情になっている。  スリリングでドッキドキの展開、というのはわかるわ。それはそうよねって納得出来る。  だけど、ロマンチックとかキュンキュンって、いったいどういうことなのかしら?  思わず、ジークとシュッツを見てしまった。 「あの出会いは、まるで昨日のことのようだ。いまだに脳裏に焼き付いていて、まったく色褪せない素敵な思い出だよ」 「ええ、ジーク。感動的で魅惑的ですらありました」  ジークとシュッツもうっとりしている。  正直なところ、どういう神経と性格をしているのって問いたいわ。  もしかすると、わたしもこんなふうになれるのかしら? 「チカ、疲れているだろう? 明日は目の医師がやって来る。話はまた明日ということにして、今夜はもう休むといい。きみの寝室は、リタとゾフィが準備してくれている。風呂に入れば、ぐっすり眠れるだろう」  ラインハルトが勧めてくれたので、驚きや謎についての考察はいったん中止することにした。  いくらなんでも、今日は情報量が多すぎた。それこそ、頭が追いついていない。もちろん、感情も。  ラインハルトの勧めに、素直に従うことにした。  これまでの人生の中でも、それにこれからの人生の中でも、今日のように衝撃的で情報量の多すぎる日はないはずよ。  ほんとうに強烈な一日だった。それこそ、いろいろな意味で強烈すぎた。  だけど、得たものばかりだった。  まずは夫を、義理の息子たちを、それからその嫁たちを、いっきに得ることが出来た。  これまでずっとひとりぼっちだったわたしに、家族が出来たのである。  家族というかけがえのない存在を、これから大切にしたい。なによりも大切なもの。  そして、同時にしあわせをつかめた。  これまでずっと幸が薄かったわたしが、しあわせを見つけることが出来た。  もちろん、わたしだけがそれを得たわけではない。いいえ。このしあわせは、ラインハルトやジークやシュッツ、それからリタやゾフィがくれたもの。だから享受し、逆にわたしが彼らにわけ与えなければならない。  心からそう決意した。  わたしの人生の転機になった一日は、静かに終わった。    翌日、ラインハルトが手配をしてくれた目の医師がやって来た。  診察を受け、視力などの測定をした。  その老医師は、もしかすると多少視力はよくなるかもしれないという。  とりあえず、メガネは急いで製作してくれるらしい。  視力矯正のトレーニング法も教えてもらった。  ダメもとで試してみるのもいいかもしれない。  スッキリ見えるようなことはなくても、眠るときやお風呂に入るときなどメガネをかけることが出来ないときに、せめて手許や近くくらいは見えるようになれればいい。  物心ついたときからだから、いまさら見えないことを嘆くことはない。だけど、少しでも見ることが出来ればいい。  努力で見えるようになるのなら、努力すればいいだけのこと。  自分の力でどうにも出来ないよりかはずっとマシだし、希望が持てる。  というわけで、この日から教えてもらったことを実践することにした。  同時に、リタとゾフィに護身術を習うことにした。  彼女たちが守ってくれるのはわかっている。だから、習う必要はない。  でも、心身ともに鍛えて損はない。  襲ってくる相手をぶっ飛ばすとか、ましてやだれかをぶっ飛ばすつもりはない。だいいち、ちんちくりんで怖がりのわたしに、そんなダイナミックなことが出来るわけはない。  この際だから精神面を強くしたい。  何があっても心が折れず、強い精神力でいられるようにしたい。  リタとゾフィにその決意を伝え、お願いをした。  彼女たちは、即座に承知してくれた。
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