お茶会に出席することに

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お茶会に出席することに

 わたしのルーツが遠い東の大陸にある国かどうかは別にして、数あるコレクションの中でなぜかこの剣しか見えなかった。他に選択肢などなかった。なぜなら、他の武器には何も感じられないがこの武器には何かを感じるから。そういうことを考えれば、もしかすると前世でなにかがあったのかもしれないし、この剣とわたしのルーツに関係があるのかもしれない。  こういう直感は大切だし、結ばれた縁はもっと大切である。  この剣を大切にしつつ、使いこなせるよう鍛錬するつもりでいる。 「チカ。きみが鍛錬をするのは、他人(ひと)を傷つけたり、ましてや殺したりする為ではない。きみは、そんことを念頭において鍛錬をしてほしい。きみは、おれたちのように軍人ではない。そして、リタやゾフィのように暗殺や諜報活動に従事するわけでもない。鍛錬は、あくまでも心身を鍛える為のもの。それを忘れないでくれ。もちろん、おれたちがいないときに身の危険にさらされるような場合には別だ。そういうときは、まず逃げること。逃げて逃げて逃げまくること。実戦経験のないきみは、いくら鍛錬で剣をつかえるようになったところで首尾よく相手を傷つけたり殺したり出来ることはまずない。もしも、もしも逃げられないとき、そのときには迷うな。迷わず相手の目を睨み付け剣をまっすぐ突け。斬るのではない。喉か胸の辺りが一番いいが、特定の箇所を狙うのは至難の業だ。だからどこでもいい。相手の目からけっして目をそらさず、とにかく突くんだ。いいね?」  ラインハルトは、アドバイスをしてくれる。それから、頭を撫でてくれる。  彼は、いつも鍛錬が終ってからその日のフィードバックをする。その際、かならず頭を撫でてくれる。  彼が頭を撫でてくれることは、苦しみを乗り越えた後の爽快感よりもずっとずっと気持ちがいい。  いまでは、わたしの密かなお気に入りのひとつになっている。  この日、庭園にあるガゼボでお茶会がおこなわれることになっている。  ラインハルトとわたし、ジークとリタ、シュッツとゾフィ、それから、宰相の息子のヨルク・ロイターとその娘のディアナとである。最近、現宰相は急に体調を崩したらしく、公務にほとんど携わっていない。その為、その息子に宰相の地位と公爵という爵位を継がせようと画策している。が、それもほぼほぼ確定しているらしい。  ちなみに、ヨルクはジークとシュッツの亡くなったお母様の双子の弟でラインハルトとは親友だった(・・・)らしい。  ヨルクには何度か会ったことがある。彼の金髪碧眼の容姿は、めちゃくちゃ美しくて若く見える。外見だけでなく、頭脳明晰でやさしくおおらかで気前がよくて気配り上手で話題も豊富でと、およそこの世の長所のすべてをもっているので大評判であることはいうまでもない。  娘のディアナとは初めて会うけれど、バーデン帝国一の才女らしい。その美しさは、他国の王侯貴族からも婚約の申し出があるほどとういう。そして、頭もかなりいいらしい。  だけど、実際の彼女の性格はかなりきついらしい。  リタとゾフィは、ちゃんと見抜いているのである。  リタとゾフィがテラス側からこっそりやって来て、ドレスや靴、それからメガネを選んでくれた。  ドレス等の衣服や靴は、彼女たちが協力してくれて仕立ててもらった。  色合い、デザインともに派手さのないものばかり。  わたし好みである。  この日は、ことさら地味なドレスにした。靴は、いつでも受け身をとったり攻撃を仕掛けられるような機能性重視のもの。メガネは、唯一ラインハルトが選んでくれたデザインである。 「お義母(かあ)様。ロイター公爵家のご令嬢は、陛下に自分を売り込む為にあなたを攻撃してきます」 「わたしたちが援護出来ればいいのですが……」 「リタ、ゾフィ、ありがとう。承知しているわ」  彼女たちに笑みを見せたつもりだけど、ひきつっていたかしら。 「ほら、わたしって打たれ強いでしょう? これまでいろいろな国で散々言われてきているの。だから、そのご令嬢の誹謗中傷も気にならないと思うの。それに、あなたたちに鍛えてもらっているから、精神的によりいっそう強くなっている気がするのよ」  もう一度笑ってみせると、彼女たちはうなずいてテラスから自分たちの部屋へと戻っていった。
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