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お茶会にて 4
「皇宮の侍女は、大したことないわね。うちの侍女の方がずっと優秀だわ。不作法すぎて不愉快この上ないわね」
「ディアナさん、見苦しいところをお見せして申し訳ありません。不愉快な思いをさせたこと、謝罪します」
とりあえず、いまは謝罪しておいた。
侍女も含め、みんなが動揺している中でディアナと言い合いをするのは逆効果だから。
そのかわり、侍女長に耳うちした。すると、侍女長はハッとしたようにわたしと視線を合わせ、それからディアナに視線を走らせた。
侍女長はもう一度深々と頭を下げてから、侍女を伴って下がった。
「ちょっとしたハプニングがありましたが、スイーツはまだ残っています。ディアナさん、ほんとうにお茶はもうよろしくて?」
「お茶をぶちまけられたくないからもう結構よ。このドレスや装飾品は高価だから、何かあって皇族に弁償してもらえなかったら大変なことになるわ。それにしても、妃殿下のドレスは地味ね。いかにも安っぽい感じがするわ。装飾品のひとつもつけていないなんて、陛下は妃殿下のことを蔑ろにされているのね。それはそうよね。亡国の王女様だったかしら? 結婚は、政治的な理由によるものなんですものね。ただの『お飾り妻』というだけの存在に、高価なものを贈っても仕方がないわ。人前に出してみっともない程度で充分というわけに違いないわね」
ついにわたしへの誹謗中傷が始まったわ。
誹謗中傷ですら、ツッコミどころ満載だけど。
彼女、わたしだけでなくラインハルトのことも貶めているということに気がついているのかしらね。
「ディアナさんのおっしゃるとおりです。付け足すとすれば、陛下は高価なドレスや装飾品を準備されたがっています。ですが、わたしがこのようにちんちくりんなものですから、高価なドレスや装飾品がまったく似合いません。美しくて洗練されているあなたなら、どんな高価なドレスや装飾品も着こなし装着して、素敵に見えるでしょう。ですが、わたしはぜったいにムリです。もったいないですから、安っぽいもので充分というわけなのです」
「ち、ちんちくりん?」
彼女は、美しい顔に驚きの表情を浮かべた。
えっ、そこなの? ちんちくりんに食いついてくるわけ?
「ちんちくりんって、この国では表現しないのかしら?」
リタとゾフィに尋ねてみた。
二人とも、笑いたいのを必死にこらえている。
「そんな奇妙な言葉、使ったことありませんわ」
「わたしも。ですが、妃殿下を見ればどういう意味かは想像が出来ます」
「そうなの。一般的な表現ではなかったみたいね。こういうところも、粗野な田舎者というわけね」
リタとゾフィの笑いを含んだ回答をきいてから立ち上がった。
「ちんちくりんって、ほら、こういうことを表現するのです」
両手を高く上げ、その場でクルクルとまわってみせた。
リタとゾフィは、さらに笑いをこらえている。
あとで二人に怒られるかしら?
「強面傲慢不遜すぎる義理の娘を演じている最中に笑わせないで下さい」、と言って。
目がまわってしまうまでにまわるのをやめた。
椅子に戻りつつディアナを見ると、彼女も笑いをかみ殺している。
やったわ。笑いをとった。
心の中でガッツポーズをとってしまった。
なにか違う、と思わないでもないけれど。
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