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「俺の負けです」
吉岡は潔く植木にサードの座を譲った。
「君も悪くない。コーチの指導を受けていないから無駄な動きが多い。いずれ俺を抜くさ」
「植木先輩、俺にサードを教えてください」
吉岡はお願いした。植木は吉岡の尻を見た。
「いい尻してるねえ、いい尻だ。いいよ夜なら個人レッスンしてあげるよ。それにしてもいい尻だ」
植木は吉岡の尻を褒めた。吉岡は野球向きの体型を褒めてもらったと思っている。しかし植木は吉岡の尻に入れたいと生唾を飲んだ。
坂上はセンターを守っている。守備も打撃も得意じゃないがバントをやらせたら右に出る者はいないと定評がある。ライトには桜島正太郎、レフトにはシュミットが守備に就いている。
「櫻島さんは鹿児島の生まれですか?」
「桜島ん出身じゃ」
「そうですか、それは奇遇ですね。僕は実家が上野に近いので西郷さんの銅像はおじいちゃんの散歩道でよく歩きました」
どこが奇遇だか意味不明である。坂上は助監督としてナインに近付こうとコミュニケーションを図るが生れ付きの人見知りでちぐはぐな会話になってしまう。
「そんた奇遇、せごどんの銅像を子どんのころから見ちょりゃもう薩摩隼人と同じじゃ」
うまく切り出せなかったと思っていた坂上だが櫻島の反応は上々だった。
「そうですか、それじゃ僕等は仲間ですね」
「仲間も仲間、身内みてなもんじゃ。あとで桜島んおふっろに電話して報告しちょく。おふっろは喜ぶど。そうだ、早か方がよか、兄弟ん契りを明日にでもしもんそ。監督に間に入ってもらう」
「はい、でも急がなくても」
櫻島とここまで接近出来るとは考えていなかった。坂上は逃げるようにレフトのシュミットの後ろに付いた。
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