第一章

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第一章

(どうしようかな… グラム200円の豚肉… 贅沢かな?) スーパーの肉売り場の前で、僕は豚肉のパックを手に取り、深く考える。 「今日は給料日だし、たまにはいいよね」 思わず声に出してしまって、焦って周りを見た。誰も聞いてなかったかな?大丈夫だったかな?目が泳いで少しドキドキした。 えいっ!とカゴに入れたけど、やっぱり売り場に戻した。 『茉紘(まひろ)、贅沢は敵だはんでね』 ばあちゃんがよく言ってたもんな。やっぱり普通にいつも通りの夕飯を作ろう。 もやしと玉葱を煮て卵でとじる、今日は『もやし丼』これだけだって凄く美味しい。豚肉が入っていたら、もっと美味しいけど… 。 そんな事を思って、いやいや、と首を横に振ったが、やっぱりチラチラと豚肉に目が行った。 そんな事をしていた時に視線を感じて横を見ると、立派なスーツに身を固め、半端ないオーラを放っている端正な顔立ちをした男の人が僕をジッと見ている。 え? 万引きとかと疑われているのかな? 途端に臆してしまい、急いで会計を済ませて帰る事にする。 サッカー台で背中に背負った大きなリュックを下ろして、エコバッグを取り出そうとした時に腕を掴まれた。 「えっ!?」 驚いて僕の腕を掴んでいる人の顔を見たら、さっきのスーツの男の人で、 「ぼ、僕!何もしていません!」 思わずそう言ってしまった。 それでも何も言わずにジッと僕を見ていたかと思うと、腕を掴んでいた手を離しスッと何かを僕に差し出した。 差し出された物に恐々と目を遣ると、さっきのグラム200円の豚肉が300グラム位。何だろうと男の人の顔に目を遣ったけれど、何だか怖くてほんの少し目を逸らした。 「あ、あの… なんで、しょうか… ?」 目を見ずに、買ったもやしと玉葱と卵をエコバックに詰めながら、訊いた声がオドオドしてしまう。 「豚肉、欲しいんだろう?」 さっきよりもグイッと僕の方へ突き出したけれど、何で?意味が分からず僕はただ怯えた。 「持って帰りなよ、やるよ」 いきなりそんな事を言われ、ギュインっと僕は振り向き、その男を睨んだ。 「おべねふとから物もらうんでねって、ばっちゃが言ってたから!」 「え?」 男の人の目が真ん丸くなって、口が少し開いたままになっている。 あ… 。 「いえ、あの… 知らない人から、頂く訳にいきません… 」 驚きのあまり生まれ故郷の方言が出てしまって、顔が真っ赤になって熱い。 本当は「知らない人から物をもらうんじゃない」ってばあちゃんから言われていたんだけど、その言い方はいくら何でもキツいと思って、柔らかく断った。 「じゃあ、俺はこういう人間」 そう言って名刺を僕の前に差し出したけど、疑心暗鬼で塊の僕は、名刺を貰う事なく急いでリュックを背負い、エコバッグを手にスーパーを小走りで出て行った。 「豚肉、欲しかっただろ?」 え゛っ!? 気が付くと目の前に男の人が立っていて、腰が抜けるほど驚いた。 「怪しいモンじゃないよ、俺」 いやっ!どう見たって、というか見た目は怪しくないけど、行動が怪しいよ!心の中の叫びが顔に出ていただろうと思うのに、男の人は何にも動じずに目の前に立っている。 「すっごい食べたそうな顔して豚肉持ってたじゃん」 顔が紅潮して、変な汗が出る。そんな風に見えていたのかと思って、酷く恥ずかしくなった。
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