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ご飯代と言って、多過ぎるお金を渡してくれて、僕は東城さんが喜ぶメニューをあれこれと探しては作ってみた。
今度は『カルボナーラサラダ丼』を作ろうと思って、贅沢にも生ハムなんかを買っていた。
その生ハムの賞味期限も、もう切れそうになっているから、どうしようかと少し切なく思う自分に戸惑う。
お金持ちの気まぐれだったのかな?
そんな風な人には思えなかったから、やっぱりどこかで東城さんを待ってしまっていた。
「そう、専務、過労で倒れて入院してるってさ」
食堂で昼食を食べている時に耳に入った会話に、思い切り振り返る。
冷凍食品部の課長と常温食品部の課長が話していた。
「新商品の開発にも手を貸して、会議に接待に得意先回りもしてたらしいぞ。若いのに頭下がるよな、専務には」
「桃十字病院だって?入院してるの」
桃十字病院?ここからそう遠くない病院だった。それにしたって、過労って、僕の安上がりの丼なんか食べてたからじゃないかと、気になった。
じっとなんかしていられなくて、班長に申し出る。
「早退?何で?」
「あ、の… 体調が悪くて… 」
「さっき、食堂で普通にメシ食ってただろう?」
「あ、あの後からで… ちょっと調子良くないのに食べたから… かな… 」
具合が悪そうに演技をして見せると、班長はフゥと溜息を吐いて、「無理すんなよ」と早退を許可してくれた。
『嘘吐ぎはろぐな人間になねはんでね』
嘘吐きはろくな人間にならないって、ばあちゃんの言葉が頭を過ぎったけど… ごめんなさい、ごめんなさいと心の中で何度も謝りながら病院へ走った。
病院に着いたはいいけれど、東城さんがどの病室に入院しているのか分からない。総合案内の人に、恐る恐る訊いてみた。
「あ、の… 東城、東城瑛大さんの入院している病室を知りたいのですが… 」
「東城瑛大さん?… あ〜この方の病室はお教え出来ないですねー」
眼鏡をかけた中年の女性がチラリと目だけを僕に向け、すぐに書類に視線を落として冷たく言った。
病室を教えて貰えない事よりもこの人の言い方に胸が痛くなる。
「すみません… 」
と頭を下げて大きな病院の中を、当てもなく歩いた。
馬鹿だな、と思う。
僕なんかが東城さんのお見舞いに来る事自体、分不相応だろうと思い家に帰ろうと思った。工場を早退してしまったから、何だかとても居心地が悪い。
「茉紘っ!」
知らないうちに二階の大きなホールに来ていて、自分を呼ぶ声、聞きたかった声が耳に届いて思わず振り向いた。
「東城さんっ!」
僕は嬉しいやらホッとするやら、分からない感情に包まれて咄嗟に走り寄る。
点滴スタンドをコロコロと転がして、東城さんが笑って手を振っている。
「東城さん、東城さん… 」
僕は情けなくも東城さんの名前を呼ぶ事しか出来なくて、込み上げる涙を必死で堪えた。
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