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赤い顔をしたままで僕は無視して歩き始めると、男の人は豚肉を差し出した状態のまま僕に付いてくる。
なんだよ、なんで付いてくるんだよっ!
「ねぇ、名前、何て言うの?」
「何歳?」
全部無視して早足で歩いているのに、簡単に僕を追い抜かしてまた前に立った。
「め、迷惑です。やめてください」
『やめで欲すいごどは、ちゃんとやめでってしゃべるんだよ』
ばあちゃんがそう言っていた。やめて欲しい事はちゃんと言えって、だから少し強目に言ってみた。
「俺、君が気に入ったんだ」
えっ!?気に入ったって、何っ!?僕、外国に売り飛ばされちゃったりするのかな?ばあちゃん、田舎で一人で暮らしているのにどうしよう、逃げなきゃ、ばあちゃんを一人にさせられないっ!
一目散にダッシュで僕は走り始めた。持っていたエコバッグがガンガン揺れる。
「待ってって!」
またも直ぐに僕の目の前に立っているから、もう本当に腰が抜けて座り込んだ。
「俺、高校時代、短距離でインターハイに行ってるから、逃げても無駄、直ぐに追いつくよ。俺の方が絶対速いもん」
端正で綺麗な顔がニッコリと笑うから、逆に何だか怖かったし、僕は外国へ売られてしまうんだと思って涙が滲んできた。
「俺、東城瑛大二十三歳。君は?」
腰が抜けて地面に尻もちをついている僕に合わせて、しゃがみ込んで顔を覗き込む。
「の、野々上ま、茉紘で、す」
恐怖心から、思わず答えてしまう。
「ののうえまひろ君? 名前も可愛いなぁ。何歳?」
怖くて怖くて、泣きそうな顔で僕はその、東城さんとかいう人の顔を見ていた。
「は、二十歳に、なったばかりです… 」
「大丈夫?立てる?」
東城さんとかいう人が僕の脇の下に手を当てて、立たせてくれようとした。
「だっ!大丈夫ですっ!」
手を払い、急いで立ち上がる。嫌な予感がしてエコバッグを覗くと、卵が大半割れていて悲しい顔になった。
「卵、割れちゃった?俺のせいかな?ごめんね、また買って帰ろうよ」
あなたのせいだよっ!また買って帰ろうって何?帰ろうって何だよっ!まるで一緒に帰るみたいに言わないでよっ!
『東京はおっかなぇ所だはんで』本当にばあちゃんの言う通り、東京は怖い所だ、でも、田舎に帰ったって仕事はないし… 何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
悲しくて怖くて、僕は涙がボロボロと流れてきてしまった。
「ごめん、俺、今ダッシュで卵買ってくるから待っててよ」
泣いている僕に、慌てて宥めるように懸命に言う。
「大丈夫です。割れてない卵もあるし… お願いですから、もう後に付いて来ないでください」
涙を腕で拭いて、唇を噛んだ。
「だって、俺、本当に君が気に入ったんだよ。俺と付き合わない?」
「!?」
付き合うって?何を言っているんだろう、この人。
頭がおかしいのかな?あんぐりと口が開いた。
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