第三章

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キッチンへ向かい、片付けを始めた。昨日は使い方が分からなかったから、持ってきた自分の炊飯器を使ってお米を炊いたけど、用意してくれていた炊飯器は、お洒落でスタイリッシュで絶対に美味しく炊けそうで、蓋を開けたり内釜を持ち上げたりしていると、東城さんがすぐ傍に寄ってきた。 「ねぇ、茉紘、嫉妬してんの?」 まだそんな事訊いてるの? 「してませんよっ!」 少し怒った声で言ってしまってハッとする。 「す、すみません… 僕… 」 「してるんだな、その言い方は〜」 嬉しそうに笑顔で僕の顔を覗き込んだ。 「本当に、してません」 真顔で淡々と言うと、東城さんはガッカリした様にリビングへ向かい、ソファーに寝転んで足を投げ出していた。リビングはダイニングと二段程の段差があって低い。その様子を遠くから少し見下ろして、ふっと笑みが溢れる。 疲れているんだろう、東城さんはいつの間にか寝てしまっていた。静かに寝ている横を通り過ぎる時に、ふと東城さんの口元に視線が行く。 あの口で… 視線が手元に流れ、あの指で… 東城さんにされた事を思い出してしまい、また僕の股間が疼き始めて慌ててキッチンに戻った。 お洒落な炊飯器の説明書を一生懸命読んで、股間の疼きを抑えた。 僕はどうかしている、そう思った。 忙しい東城さんが部屋に来るのは週に三、四日位で、そのうちに僕もここの快適な暮らしに生意気にも慣れてきていた。 「茉紘、引っ越したって?」 「う、うん… 」 寺田くんに話していなかったけど、住所変更やら何やらの手続きで何処かから聞いた様だった。 「どこに?前のトコ、安くて助かるって言ってたじゃん、もっと安いとこ見つけたの?」 「ん?ん… 」 工場の側って言ったら、遊びに行ってもいいかと言われそうだし、どうしようかと困っていたら 「いいな、引越す金あって。俺も引越してぇよ、隣りのカップル、夜の声がデカくてよ」 「やだ、寺ちゃん、聞こえちゃうの?」 後ろからパートの杉山さんが声を掛けてきた。 「寺ちゃん位に若い子にはそんな声、可哀想ねぇ〜」 ふふふっと笑って杉山さんと、もう一人のパートさんが僕達のテーブルに移動してくる。 「ねぇ、二人は彼女いるの?」 「俺?いないっすよ。誰か紹介してくださいよ」 「寺ちゃん、やんちゃぽいからなぁ〜、安心して紹介できない」 「酷いなぁ、俺、真面目っすよ」 不貞腐れて寺田君が口を尖らせて笑っている。確かに、ちょっと不良っぽい感じが残る寺田君は、見た目より真面目で好感が持てるし、僕は寺田君が好きだ、… そういう意味ではなくて。 「茉紘くんは?」 「僕も… いないです」 「茉紘くんなら、いくらでも紹介したいわっ!娘があと十歳若かったらなぁ〜絶対に彼氏になって欲しいもんっ!」 「ひでぇな杉山さん、俺に失礼じゃん。十歳って娘さん、幾つなんすか?」 「三十五歳」 「えっ!?杉山さん、そんな歳の娘さんがいるんすかっ!? 杉山さん、若いっすね」 「やだ、寺ちゃん、何も出ないわよ」 「… 何も出ないんすか、なんだ… 」 「ちょっと!寺ちゃん!」 寺田君と杉山さんの話しを聞いていると漫才の様で楽しくて、もう一人のパートさんと皆で笑った。 引越し先の話が飛んでくれて、ホッとして胸を撫で下ろした。
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