第三章

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僕が寝室に入ってきても、目もくれずに書類を捲っている。 僕を見て。 そんな事を思ってしまい、佇み俯いてジッと東城さんを見る。 「ん?」 黙って立ったままの僕に、漸く視線をくれた。 「どうした?」 「お仕事、ですか?」 たくさんの書類がサイドチェストに積まれていた。 「ああ、ちょっと目を通しておきたくて」 基本、僕といる時は殆ど仕事をしていなかったから、堪らない切なさに胸が詰まる。 「あ、の… 肩、揉みましょうか?疲れ、取れますよ」 「え?いいよ、そんな事」 僕を見ずに書類に目を遣ったまま答える。 黙ったまま見つめている僕を見て、少し気が咎めたのか、 「そんな事されたら、茉紘を襲っちゃうからな」 はははっ、と冗談ぽく軽く笑ったけど、いつもの東城さんじゃ無かった。 「いいですよ、襲っても」 ごくりと唾を呑み、僕は答えた。 「えっ!?」 東城さんは驚いて僕を見ると、狼狽えて体勢を崩してしまい、ガタガタバタバタとたくさんの書類を落としてしまって慌ててベッドから出て、拾い始めた。 傍に寄って僕も拾うのを手伝う。 「い、いいよ、ま、茉紘は、もう、寝、寝なさい… 」 「東城… さん… 」 潤んだ目で東城さんを見つめて、小声で言った。 えっ!? と、東城さんの狼狽えが激しい。 「僕、襲われても、いいです… 」 「… いや、茉紘の嫌がる事をしたら、茉紘が此処から出て行くから… しない… 」 そう言って僕から目線を外すと、散らばってしまった書類をまた拾い始める。 「嫌な事、じゃない、から… 」 僕は東城さんに特別な想いを抱いている事に、既に気付いていた。気付いていたけれど男同士なんて、と怖くて認められずにいた。 でも、認めなければ東城さんが離れていってしまう気がして、それは、それは絶対に嫌だった。 「…… 茉紘… 」 東城さんの左手が僕の頬に優しく触れると、そのまま唇が近付いた。唇を重ねただけで、一度離す。僕の目をジッと見る瞳に吸い込まれた。 もう一度唇が重なり、顎を下に引かれて小さく口が開いた隙間に、東城さんの舌が這入り込んだ。 ぬるりと這入ってきたけど、今度は気持ち悪くなかった。東城さんの両の二の腕を強く掴んで、舌を絡ませ口の周りが唾液でまみれる。受け入れて貰った事が分かると、激しくキスをしながら大きくなってしまった僕の股間に手を滑らせた。 ビクン、と身体が動いてしまったが、二の腕を掴んだままの手に力を入れた。 「茉紘、ベッドに… 」 力を入れ過ぎて固まってしまった僕の手の指を、ゆっくりと一本ずつ腕から解放した。 僕の頭は真っ白になって、これから何が起きるのかさえも考える事が出来ずに、涙を浮かべてただ、ただ優しく微笑む東城さんを見つめていた。
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