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いつもとは違うアラームの音に飛び起きる。東城さんのスマホのアラーム。
僕の目覚ましのアラームのセットを忘れていた。
いけない、東城さんの朝食の支度をしようと、寝ている東城さんを起こさない様に、そろそろとベッドから足を下ろした。
「ん?茉紘、今朝はいいよ。まだ寝ていよう」
ベッドから出ようとする僕の腕を掴んで東城さんが言った。自分の姿を見て驚く。そうだ、真っ裸で顔が赤くなる。
「おいで… 」
腕を掴んだ手が引かれて、頭を抱えられ唇が重なった。昨夜した事が思い出されて恥ずかしくなって、少し逃げるようにしたけれど東城さんは逃してくれない。
東城さんの身体が逞しい。肩幅が広くて胸板が厚いのは、分かっていたけどこんな間近で見てドキドキした。鍛えているだろう身体がよく分かる。
「あ、でも朝ご飯の支度をしなくては… 」
「だから、今朝はいいって言ってるじゃん、茉紘とこうしていたい」
でも… と恥ずかしそうに俯いて東城さんの言う通りに、胸の中に収まるとそのうちにスマホの着信音がジャンジャン鳴った。
「ふーっ、澪さんか… 」
東城さんは来栖川さんにはどうにも逆らえないようで、名残惜しそうに僕に一度キスをするとスマホに手を伸ばした。
「はい、もしもし」
クスリと僕は笑って、そのうちにベッドから出て脱がされた下着や服を拾って纏う。
「そんな事、後でいいよ。茉紘との時間、邪魔しないでよ」
えっ!?思わず振り返った。そんな事、来栖川さんに言わないでよっ!そう思って顔が真っ赤になった。
「え?そんな事知らない?まぁ、そうだね、俺と茉紘が何してるかなんて知る訳ないよね」
はっはっは!と笑っている東城さんを思い切り睨んだ。もう、どんな顔して来栖川さんと会えばいいのか分からないじゃないっ!
でもそう言って笑って話す東城さんの声と顔が、今までで一番、優しく幸せそうに見えた気がして、僕の胸が温かくなってほぅっと笑みがこぼれた。
「和食と洋食、どっちがいいですか?」
「んー、じゃ、味噌汁が飲みたい」
「分かりました」
玉葱を薄く切って茹でている間に鮭を焼き、卵焼きを作る。きゅうりの浅漬けを器に盛ってランチョンマットを敷き箸を並べ、味噌汁も出来上がって東城さんを呼びに寝室に向かう。
「朝食、出来ましたよ」
「うん、茉紘、起こして」
身体を起こしてくれと腕を伸ばした。すっかり甘えん坊になっている東城さんを愛しく思ってしまう。傍に寄り手を取るとまた、引き倒れる。
「ご飯、冷めちゃいます」
ぷっと頬を小さく膨らませて東城さんをしかめ面で見ると、「分かった、分かった」と笑いながら起き上がる。
幸せに思う。
今日は寝坊してしまったけれど、休みだからこんな風に支度が出来た。普段僕も仕事の時は朝早く起きて東城さんの朝食の作っている。
にこにこと満面の笑みで、朝食を食べてくれる東城さんと一緒に食事をして、この上ない幸せを感じた。
「玉葱と卵の味噌汁は大好物だ。茉紘はよく分かってくれてるな」
優しい、穏やかないつもの笑顔。昨夜、僕を抱いていた時の荒々しい東城さんの気配はどこにもなくて、ほんの少し戸惑う。
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