第一章

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「俺と付き合うと楽しいよ」 いつの間にか隣りに並んで歩いて、この東城さんとかいう人はニコニコとして僕に話し掛ける。 高校を卒業して就職、青森から出てきて仕事も二年目になる。田舎から出てきた僕には東京は初め、外国で暮らしている様に思えるほどに全く違った空間で、とは言っても外国で暮らした事がないから偉そうには言えないけど。 怖くて仕方なかったけど、仕事しなくちゃだし、辞めて帰ったりしたらばあちゃんに酷く怒られるだろうと思って、寂しくても頑張って働いた。 青森に帰るにも新幹線代は高いし、かと言って夜行バスではあまりに時間が掛かり過ぎて帰る気にはなれなかった。だから、ばあちゃんとは青森出てから会ってないし、両親とじいちゃんの墓参りにも行けていない。 「まひろ、荷物持つよ」 「大丈夫です」 何でいつの間に僕の事を呼び捨てにしてるんだよ。このまま家まで付いてくるつもりなのかな?勘弁して欲しい。 「あの… 」 「ん?」 嬉しそうな顔で僕を見る。 「何処まで付いてくるんですか?」 「まひろの家まで」 「……… 」 何でそんなに勝手ができるの? 東京の人は本当に怖い… 。 「さっき会ったばかりの人で、よく知らないのに、こんなのおかしいですよね」 「じゃあ、これから知り合おうよ」 「僕は別にあなたを知りたいとは思いません」 「俺、瑛大(えいだい)ね」 「……… 」 「あの、本当に迷惑なので、付いて来ないでください」 立ち止まって真剣な顔で、真剣に断った。見ず知らずの人に、しかもこんな感じの人に家を知られるなんて怖い。 「あ〜大丈夫!大丈夫!気にしないでっ!」 笑って手を横に振った。 へっ!? やっぱりおかしい、この人。 「田舎、どこ?東北?」 歩きながら、静かに訊いてきた。さっき驚きのあまりに出てしまった方言で分かってしまったかな。それでも、田舎の話しをされると弱かった。 「青森… です」 つい答えてしまった。 「青森から一人で?凄いなぁ。おばあちゃんって言ってたね、おばあちゃんが田舎にいるの?」 「… 祖母と二人暮らしで… 田舎には仕事がない、と言うか家から通える所には仕事が無くて、どうせ家を出るなら東京に行こうかと思ったんです」 意に反して色々と話してしまった。 「そうか、頑張ってるね」 そう言われて東城さんの顔を見上げた。身長170cmの僕よりよりはるかに背が高い、180cmは優に超えているだろう。僕を見て優しく微笑む東城さん。端正な顔が微笑むから、何十倍にも輝いて見えた。そんな東城さんに、何故だか少し心を許してしまって、 「そんなことないです」 と小さく返した。『頑張ってるね』と言われて、何だか嬉しかった。 「僕のアパート、狭くて綺麗じゃないから… スーツが汚れてしまうから、来ない方がいいですよ」 自分で言ってる事がおかしくて、目線を左上にして「ん?」と思う。何でそうなる?自分でツッコんだ。 「行っていいのか!?」 大きく目を見張って僕を見て嬉しそうに飛び跳ねているから、変な人だなぁと思いながら、満更でもなくなっている自分に気付く。 「だって、このまま付いてくるでしょ、どうせ」 「分かってんじゃん」 僕の背中をバシンっと叩いたので、前に三歩位出てしまって東城さんが「悪い、悪い」と笑って謝る。 でも、東城さんは自分の事は話さなかった。
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