第三章

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この辺は此処しか出掛ける場所が無いから、ばあちゃんの言う通り酷い混みようだった。この辺りの町、村中の人が全員集まっているように思えた。 「凄い混んでるね」 「どうする?茉紘くん、お腹空いでらよね?」 「大丈夫だよ、美世ちゃんは?」 「わーも大丈夫」 モールのレストランは行列で、一時間は待たなくては食事が出来ない程だった。テイクアウト出来るドーナツを買い、ペットボトルの飲み物で空腹を満たしただけなのに、美世ちゃんが嬉しそうで、少し心苦しい気持ちになる。 「買い物も済んだし、帰ろうか」 この時間なら向こうの駅からのバスに丁度いい。 「んだの」 「大丈夫?美世ちゃん、他に買うもの、ない?」 「あ、じゃあ一個だけ… ネックレス欲すくてあった」 いいよ、とアクセサリーの店に寄り、目をキラキラさせて見ている美世ちゃんの隣りに立って黙って見ていた。 「茉紘君、どっちが似合う?」 どっちが似合うかと右手と左手に持ったネックレスを顔の横に下げている。 よく分からない、どっちも似合うけど… というか、言葉を選ばなければどっちも同じ、と思って何て答えていいか分からない。 「うーん… 」 首を傾げている僕の答えを、ワクワクした顔で待つ美世ちゃんに申し訳ない。 「右手… の方、かな?」 適当に答えた。 「へば、こっちにする!」 お会計してくるね、と嬉しそうに顔を覗かせた美世ちゃんに、 「僕が買うよ」 高価では無かったし、何の気なしに言った。 恋愛なんかよく分からない僕は、アクセサリーを買ってあげるのも、アイスを買ってあげるのも別に一緒だったから。 「本当!?嬉すいっ!」 少し涙ぐんでいるように見えた。こんなに喜ぶなんて思わなかったから、少し引いてしまう。 帰り道、ずっと嬉しそうに楽しそうに歩く美世ちゃんに気が引けて、僕はずっと嘘っぽい笑顔のままだった。やっぱり、無理言ってでも東城さんと温泉に行きたかったな、頭の片隅でそんな事を思いながら。 「あれ?なんだが賑やがだね」 着いたのは夕方遅くになってしまったけど、夏の日は長くてまだ明るい。 僕の家の前でそう言うと、美世ちゃんがくるりと振り向いて笑顔を見せた。   玄関に入ると、ピカピカに光って先の尖った黒の革靴に、黒のハイヒールが並んで、部屋の奥から愉し気な笑い声が聞こえてきた。 まさか…… 。 「茉紘!おがえり、上司さんが来てるがら!」 早く、早く!と嬉しそうにばあちゃんが僕の腕を引いた。 「茉紘、おかえり」 「お邪魔してます、茉紘さん」 座っている東城さんと来栖川さんが、満面の笑みで僕を見上げた。
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