第三章

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座卓の前にドカンと座っている東城さんと、優美に正座をしている栖川さんを見て、あまりに驚いて口があんぐりと開いてしまっている。 「ぼっとすてねで、ちゃんと挨拶すねぐぢゃ」 「あ、ああ… ど、どうして? 東城さん」 「茉紘っ!副工場長さんになんて呼び方するんだ!全ぐもう、恥ずがすい!」 副工場長?何言ってるの? ばあちゃんを見て、東城さんと来栖川さんを見た。東城さんの優しい満面の笑みは変わらず、来栖川さんは少し笑いを堪え口を結んだまま僕に目配せをした。 美世ちゃんは固まっている。 おそらく二人のオーラや見たこともないようなハイカラな二人の姿に、東京の人って凄いと思っているんだろう。東京の人だって、下手したら美世ちゃんみたいになるけどね、二人を目の前にしたら。 「ちょっと、この近くまで来てね、折角だから茉紘のおばあ様にご挨拶を、と思ってね」 「そった、おばあさま、なんて… 」 近くまで来たなんて、そんな直ぐに分かる嘘を吐いて… それに『おばあさま』と呼ばれてばあちゃんが赤い顔して照れてる。でも、凄く… 嬉しい、東城さんに逢えて嬉しかった。 「綺麗… そしてカッコいいねぇ、茉紘君っ!」 美世ちゃんが目をキラッキラさせて僕の腕を振って言う。東城さんの満面の笑みの口角が気持ち下がった気がした。 「副工場さんと事務長さんは、恋人同士なんですか?」 慣れない標準語で一生懸命話すのはいいけど、え?事務長って、来栖川さん? で…… 、 「ばあちゃん!何、失礼な事言ってるんだよっ!」 ばあちゃんの質問を僕がヒヤヒヤして制した。 「ばっちゃ、野暮な事、訊がねの」 笑いながら台所で、買ってきたお菓子を器に乗せて自分の家の様に振る舞っている美世ちゃんにもハラハラする。 「ほう、茉紘の彼女さん、かな?」 僕の顔が思いっ切り引き攣った。 「ちっ!違いますよっ!もう、やめでけ!」 僕より先に美世ちゃんが真っ赤な顔で否定しけど、恥ずかしそうに頬に手を当てにやけている。来栖川さんは笑いが堪えられないようで、東城さんがいる方とは反対に顔を背けた。 「こった若ぇばって副工場長さんって、凄いですねぇ」 「ねぇ、ばっちゃ見て」 ばあちゃんと美世ちゃんが好き勝手に喋っていて恥ずかしい。 「茉紘君に買って貰ったの」 そう言って美世ちゃんがネックレスを袋から出すと、嬉しそうに首に当てている。 買って貰った、なんて僕が偉そうで嫌だな、と思ったけどそんな、偉そうとかそういう事じゃなくて、東城さんは笑っているけど、目が全然笑ってなくて、来栖川さんが口を『ほ』の字にして眉を上げ、チラリと横目で東城さんを見ている。 何か、駄目だった… のかな? 座卓を挟んで東城さんが胡座で座り、隣りに来栖川さんは正座をしていて、僕も正座をして手を太ももに当てて小さくなった。 「そう、茉紘が買ってあげたの?」 え?  東城さんは笑って見せてた口元さえも下がって、こめかみに怒りマークまで見える様だ。 なんで? 困って来栖川さんに助けを求めて目線を送った。
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