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「僕の夕飯はスーパーで半額になってた弁当なので」
背負ったリュックの脇のファスナーを開け、手探りで鍵を探して取り出しながら、半額の弁当を買った事を正直に話した。
こんな貧乏くさい僕なんか、気に留めたって面白くないですよ、と胸の中で呟きながら。
「え〜そうなの〜?じゃあ俺の夕飯は?」
口を尖らして残念そうな顔をする。
東城さんの夕飯なんて知らないよ、構わずに無視して鍵を開けて扉を開けると東城さんまでグイッと入って来た。
「ちょ、ちょっと!入らないでくださいよ!」
狭い玄関ですったもんだして、東城さんの腹を出ていくようにと押した。
… 硬い… 見事な腹筋に驚いて思わず手を引いた。
仕事も出来て足も速くて頭も良くて顔も良くてスタイルも良くて、高級車に乗ってて腹筋も硬くて… 何で僕になんかに興味を持つんだよ、本当にやめて欲しかった。
「ねぇ、茉紘… 」
狭い玄関だから、滅茶苦茶、東城さんの顔が近い。前髪が真ん中で分けられて額を覗かせ、端正な綺麗な顔を邪魔する事なく軽いウェーブが掛かり、耳上でカットされた髪型は清潔感もいっぱい。そんな東城さんに間近で呼ばれて、
「な、何ですか… 」
少しドギマギしてしまう。
「キス、していい?」
「!!」
僕はあまりに驚いてスニーカーも履いたまま、部屋の一番奥へと逃げた。
「靴、脱がないと」
しれっと言って、東城さんは尖った高そうな靴を脱いで部屋に入ってきた。
「弁当、片寄っちゃってんじゃない?」
驚いて慌てて逃げた僕の手元を指で差すと、自分で買ってきたレジ袋を小さなテーブルの上に置いた。
その場で僕はスニーカーを脱いで玄関へ持って行く。きちんと脱いだ靴が揃えられていて、育ちの良さまで見せつけた。
「あの… 揶揄ってるんですか?」
そうとしか思えない、こんな田舎者を揶揄ってどこが面白いんだ、本当に趣味が悪い人だと思って睨みつけた。
「揶揄う訳ないだろう」
あっはっはと笑いながら買ってきた、もやしと玉葱、卵に豚肉を勝手に冷蔵庫にしまっている。
「怒った顔も可愛いな」
でれっとした顔で笑うから、本気なんだと改めて思い知らされる。
「僕、本当にそういう趣味、無いので」
もう一度しっかりと、ちゃんと言った。
「うん、でも俺は茉紘が好きだから」
弾ける笑顔を僕に投げて、「俺は何を食べればいい?」と哀しい顔で訊かれて… 仕方ない、豚肉入りもやし丼を作ってあげた。
多めに作って東城さんの分を除けば、冷蔵庫に保存して明日の僕の夕飯になる。正直助かった。
「茉紘の弁当も美味しそうだな!その沢庵、くれよ」
僕が作ったもやし丼を、それは嬉しそうに食べながら、東城さんは半額になった弁当を美味しそうだと言い、隅にある沢庵が欲しいと屈託ない笑顔を見せた。
変な人だな、と思いながら胸が温かくなって、僕の口角が少し上がった。
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