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早く戻って仕事がしたい!
「ほら、いつまでも落ち込んでいないで。会社戻って、今日の仕事さっさと終わらせるよ!」
7月半ばの昼下がり、晴天の日差しで汗ばむスーツの下を気にしながら、駅に続く歩道を歩いては立ち止まり、後ろを振り返る。
ヨレヨレのスーツで背中を丸め、汗を拭きながらどんどん小さくなっていく眼鏡男、青山優は、自分のビジネスバッグを大事そうに抱え、私のあとをトボトボ歩いてついてくる。
「僕の…僕のせいで、先方や会社の皆さんにご迷惑かけて…こうやって牧野先輩の貴重な時間も使わせて…」
そう思うなら、ダッシュで帰って仕事しようよ。
だけどここまで落ち込んでいる青山君じゃ、このまま会社に戻ってもミスを連発しそうだ。
私、牧野美園は小さな広告会社に6年間勤務する28歳。
先週、先輩である片桐来斗からプロポーズされたばかり。
4つ年上の彼とは2年間の交際期間があったけど、他の社員にはまだ内緒。
仕事に結婚。
充実した毎日を過ごして、今が一番幸せな時期かも、と思うけど…。
実は来週末に来斗と約束している、ご両親との食事会からは泣きたいほど逃げ出したい。これから結婚に向けてしきたりやしがらみなど、覚えることがわんさかあるのだ。…片桐家はちょっとした名家らしい。
今だって、仕事が楽しく誰にも邪魔をされたくない時に限ってこうやってアクシデントが発生したりする。まぁ、思ったよりも早く解決して良かったけど…。
私は心の中だけで大きなため息をついた。
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