帰還

5/5
前へ
/68ページ
次へ
 部屋を換気しながら部分的に掃除をし、来斗用の布団を出してシズさんを休ませた。  冷蔵庫の中身を確認し、捨てるものは袋に詰めてマンションのごみステーションへ放り込む。  その足で近くの閉店間際のスーパーへ駆け込み、食料とシズさんの日用品を買い込んだ。郵便物も回収。  私が部屋に戻る頃には、部屋がエアコンで充分に暖かくなっていた。  シズさんはまだ調子は悪そうだが目を開けていた。 「ごめんね、シズさん。私を人間界に帰すために巻き込んで…」 「言うな。ワシも納得の上じゃったんじゃ。ちょっと予想以上のダメージだがの、そのうち慣れるじゃろ」  シズさんの水や食べ物を買ってきたけど、口に合うかわからない。  シズさんの今回の『忘れ物を届ける』という目的を果たしたらすぐにでも妖精界へ戻すべきなのか。  いや、無理だ。  次の満月は1月7日。  そんな時期に96歳の老婆を池に落としたら、妖精界へ辿り着くどころか、あの世に到着してしまう。  実際、妖精界と繋がる保証は全く無い。  私は焦がれていたコーヒーとチョコレートを準備した。 「苦っ…」  4ヶ月摂取しなかっただけで、こんなに味覚が変わるのか。  私は牛乳を多めに入れ、ぬるくなったコーヒーを片手に郵便物と携帯のメールをチェックする。  両親や友人、同僚のメールの内容を確認してわかったこと。  私は、この4ヶ月間海外へ放浪の旅に出ていた事になっているらしい。  (あれ?どこかで聞いたな)  元気?食べ物は口に合う?とか、ホテルはキレイ?など、心配は心配でも気楽なメッセージばかりだった。  そして…青山君の事は、あの時の仕事のミスに責任を感じて会社を辞めた事になっていた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加