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部屋を換気しながら部分的に掃除をし、来斗用の布団を出してシズさんを休ませた。
冷蔵庫の中身を確認し、捨てるものは袋に詰めてマンションのごみステーションへ放り込む。
その足で近くの閉店間際のスーパーへ駆け込み、食料とシズさんの日用品を買い込んだ。郵便物も回収。
私が部屋に戻る頃には、部屋がエアコンで充分に暖かくなっていた。
シズさんはまだ調子は悪そうだが目を開けていた。
「ごめんね、シズさん。私を人間界に帰すために巻き込んで…」
「言うな。ワシも納得の上じゃったんじゃ。ちょっと予想以上のダメージだがの、そのうち慣れるじゃろ」
シズさんの水や食べ物を買ってきたけど、口に合うかわからない。
シズさんの今回の『忘れ物を届ける』という目的を果たしたらすぐにでも妖精界へ戻すべきなのか。
いや、無理だ。
次の満月は1月7日。
そんな時期に96歳の老婆を池に落としたら、妖精界へ辿り着くどころか、あの世に到着してしまう。
実際、妖精界と繋がる保証は全く無い。
私は焦がれていたコーヒーとチョコレートを準備した。
「苦っ…」
4ヶ月摂取しなかっただけで、こんなに味覚が変わるのか。
私は牛乳を多めに入れ、ぬるくなったコーヒーを片手に郵便物と携帯のメールをチェックする。
両親や友人、同僚のメールの内容を確認してわかったこと。
私は、この4ヶ月間海外へ放浪の旅に出ていた事になっているらしい。
(あれ?どこかで聞いたな)
元気?食べ物は口に合う?とか、ホテルはキレイ?など、心配は心配でも気楽なメッセージばかりだった。
そして…青山君の事は、あの時の仕事のミスに責任を感じて会社を辞めた事になっていた。
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