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ある日、シズさんにお願いされた食材を買ってマンションに帰ると、エントランスで来斗が待っていた。
「…美園!」
私の顔を見るなり駆け寄ってきた。
「どうして…!どうして急に何も言わずに海外なんかに行ってしまっていたんだ!親に会う約束だってあったのに…」
来斗が私の両肩をつかみ、怒鳴る。
その表情は、怒りに満ち溢れていた。
「来斗、心配かけてごめんなさい。もっと早く帰ってきたかったけど…どうしようもなくて」
「それでも連絡ぐらいくれても良かっただろう!俺は会社でいい笑い者だったよ!婚約者が海外逃亡だってな!」
あ…そっちか。
「親も激怒で、プロポーズは無かったことにしろと、見合い相手を連れてくるし!…なぁ美園、今ならまだ間に合う。美園が会社を辞めて、内に入ってくれると約束してくれればやり直せる。もう充分自由を楽しんだんだろう?美園は、俺の元に帰ってくるよな?」
そりゃ、まさか異世界へ強制連行されたとは思わないよね。
だけど、来斗は私を何だと思っているのだろう。
そして、何故勝手に仕事を辞めると?
「来斗、ごめんなさい。私、今同居している人がいるの」
「は?ど、同居?」
「来て。紹介するから」
私は部屋に帰り、シズさんを来斗に紹介した。
「こちらは私がすごくお世話になったシズさん。私と結婚するなら、シズさんも一緒じゃないとダメなんだけど…それでも良い?」
「馬鹿にしているのか!?」
来斗は私から詳しい訳も聞かず、更に怒って帰っていった。
「良かったのかぇ?会いたかった相手だったのじゃろう?」
「…良いの。来斗は私がどれだけ仕事を愛しているかわかっていなかった。それだけよ」
本当はそれだけじゃない。
来斗から婚約破棄のメールが届いていても、5ヶ月振りに会えても、心は動揺しなかった。
どうしてかなんてわからないけど、今私にとって大切なのは仕事とシズさんだ。
そして青山君との約束。それを守りたかった。
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