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「お待たせ、シズさん。忘れ物の返却を始めよう」
1月の終わり、私の仕事もシズさんも体調も落ち着いてきたので、シズさんの希望を叶える事にした。
まずは写真家 佐伯涼雅さんへコンタクトを取った。
ひとりでオフィスを訪ね、普通に面会を希望しただけではなかなかお会いできなかったけど「シズさんが会いに来ていますとお伝えください」と受付対応してくださった方にお願いすると、すぐに佐伯さんは自宅から飛んできた。
「…シズさん!」
佐伯さんが信じられない、といったように天を仰いだかと思ったら、シズさんのもとに座り込み、手を取って泣いた。
シズさんはまだ長時間の外出ができる程ではないので、空気清浄機をフル稼働させた私の部屋での再会となった。
「おぉ…涼雅。本当に生きていた。良かった…良かった…」
シズさんはその細い目から大粒の涙を流した。
「シズさん、またお会いできるなんて、嬉しいです。7年前妖精界に迷い込んで不安だらけでしたが、シズさんが居てくださったから助かりましたし楽しめたのです。だけどまた強制的に人間界へ戻されて、シズさんにちゃんとお礼が言えないままでしたので、それが心残りで…」
きっと佐伯さんの作品は、元気に働くシズさんを追い求めていたのだろう。
私は佐伯さんが妖精界へ残していったバッグとSDカードも返却する。
私達は私のパソコンでSDカードの画像を確認しながら、妖精界での思い出話に花を咲かせた。
「え、佐伯さんが落ちた池は、あの公園ではないのですか!?」
「はい、T県の自然公園です。野鳥を追いかけて撮影していたら、ドボンと落ちまして。人間界に戻ってから同じように落ちてみたのですが、何度やっても妖精界へは行けませんでした」
「ワシが落ちたのも、あそこじゃないのぉ」
ではシズさんを妖精界へ帰そうにも…どの池が妖精界へ繋がっているのかわからないということ?
それとも単純に実はどの池からでも繋がるけど、あの区域に人が既に住んでいるからダメだとか、池の妖精が拒否しているだけなのだろうか。
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